行かないで2



『あんまり積極的になると、逃げられるぞ?』










俺の頭の中を、立花の一言が支配していた。


逃げられたくはない。
文次にずっと側に居て欲しい。


実際、もっと文次といちゃつきたい、というのが本音なのだが、立花の余計な言葉が俺を引き留めるのだ。





(いや、付き合いだして10ヶ月。文次は俺の事を好きな筈だし、もう色々しておかしくない)





たしかに、手を繋ごうとしたらもの凄い速さで避けられたし、ふざけて抱き締めようとすれば身体が最小限触れないように引かれて変な体勢になったし、キスしようと迫ったらビンタで本気で叩かれた。




その位なだけで…










あれ





さすがにビンタは無いよな…





俺、逃げられ…かけてる






文次郎との帰り道。ぼうっとそんな事を考えて勝手にショックを受けていると、奴が足を止めて何か言いたげに口をパクつかせ腕をぱたぱたさせたので、



可愛くて頭をぐしゃぐしゃにしてやりたかったが、俺はぐっと堪えた



そして、立ち止まって、文次郎からの言葉を待つことにした。




すると




「っ…!!」




何って



文次にいきなり両腕を掴まれたのだ。



胸に飛び込んできたような体勢になり、一気に間合いが近付いた。お互いに触れる腕が暖かい。



(な…なんだ?…っ、う〜、反則だぜ)






彼女の匂いに理性が奪われるのを必死に堪えながら、文次が次に何をしでかすのか構えていた。






多分ひでー顔してるな、俺





しかし今はおあいこだ。





黙ったままでいる俺に、不思議そうにそうっと文次が顔を上げた。






真っ赤になって、上目使いの文次は、これまでになくどうにかしてしまいそうだった。





(なんつー顔してんの!!可愛…、わーもう駄目かも)





文次の可愛さに身悶え顔をしかめていると、今度は赤くなった顔がみるみる真っ青になった。









そうして、瞬きした瞳からはたはたと涙が落ちた。







(…え)







どうしたのだろうと呆然としていると、




どんっ!
(ごほっ…!)




胸を突かれ数歩後ずさった。





(なんだ、なんだ。)





胸を押さえて見上げると、彼女の後ろ姿が目に映った。

肩を小刻みに震わせ、手でぐりぐりと涙を拭っていた。






「…。」





どうして泣くんだ。






抱きしめて、顔を文次の震える肩に埋めて、頭を撫でてやる、という想像が瞬間に流れ、そうしなきゃと身体が動いた。


(いや…)


肩に置こうとした右手が止まる。








『―あんまり積極的になると、逃げられるぞ』








逃げ、られる?






嫌われる






俺は手を引く。






すると、後ろに目でもあるかのように、文次が早く行けよと言った。






もしかして






別れを切り出そうとした?





そんで何かギリギリ思い止まって






っつーか俺を思って






今は止めてくれたんだ






俺が傷つくって思ったから!







身体がキリキリ痛む。

俺は雷に打たれたみたいな感じで

ショックに打ちひしがれていた








お前が遠いよ、文次郎



触れないし届かない


抱きしめてもきっと近づけない



胸の中でもやもやするものを置き去りにするように










俺はその場から離れた。







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好きでいて。
側にいて。
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