行かないで

あのな。

最近食満が冷たいんだよ。

喧嘩ばっかで冷たいも糞も無いこた無いけど…

…そっけない、って言うのか?

もっと色々話したいんだけど何て言ったら良いのかわかんねえの

だって言っても無視すんだよ

あいつ何か別の事考えてるみたいでさ









食満とのいつもの帰り道。
俺の顔付きが悪いのは元からだけど

今はそうじゃなくて
食満ともっと一緒にいたいから不機嫌なだけ

だってもうそろそろ分かれ道になる交差点だから


何とか食満を引き留めなきゃと
「近くにコンビニあるから寄ってこう」とか、

「公園に行こう」とか、

「商店街を歩こう」とか。

散々考えて、交差点に着いたら、綺麗さっぱり全部忘れた。



プチパニックってやつ

食満を掴んでみる降りをしたり、髪をなぜる素振りを見せたり…

おかしなジェスチャーみたいなことをして、わたわたと行き場を失って空を切っていた手は、結局食満の両腕を掴んで落ち着いた。


がっしり。


「………」


頭ん中真っ白。


やべぇ


何か。何か言うべきなんだろう。が、


しかし何を言ったら良いのか解らない。でもこれは、俺が食満を引き留めている状態だし、ていうか実際俺は食満とまだ一緒に居たい。


何を言ったら




『食満がきっとリードしてくれるよ』




先刻、俺の相談に乗ってくれた善法寺の言葉が今さら蘇る。



そうか、食満の方が俺の百倍恋愛経験があるから、こういうときの対応に長けているはずだ。任せればこっちにも話し出す切っ掛けをうまく作ってくれるかもしれない。

そう思って、顔を恐る恐る上げてみた。






「……。」






俺に服を引っ張られ、動けなくてウザそうにしている食満。

目が合ったけれど、何も言ってくれなかった。

俺はその微妙な空気に胸が痛く苦しくなった。

それでも食満が口を開く様子は無い。


何か、何か言えよ。


一人にすんなよ。


恋人なのに、他人扱いかよ。


ひっでえな。




心の中で悪態を吐いていると、余計自分が一人なんだって思えてきて、途端に目頭がぐわっと熱くなった。




それから二、三回瞬きをすると






涙が零れた。






甘えるって、

こんなに大変で、

こんなに切ないのか。






なんて






今さら気付いてももう遅い。






俺は食満の視線が痛くて、奴の胸をどんと押して背を向け泣いた。

泣いてる顔を見られるのは、寝顔を見られる次にイヤだったから。
ここが道路の脇でよかった。車の過ぎる音が小さなしゃくりを消してくれる。





「…先…先に行けよ」





嗚咽を抑えて落ち着いた声で食満に言う。


ろくに泣いたこと無くて、下手くそに涙と鼻水を手の甲でぐずぐず拭った。


少しでも気を緩めると又嗚咽が漏れそうで、必死に口をつむる。


それよりどうしよう、何て言い訳しよう?
甘えたかったなんて口が裂けても言えないし
泣いてる理由なんて俺にもわかんねえよ!


てゆーか彼女泣いてんのにほったらかしとか!


いつも喧嘩してるのは別として優しさの欠片もねえ!

死ね!ばか食満

ばーかばーか

ばか阿呆


折角伊作にまで相談に乗って貰ったのに


台無しじゃねえか


ばか





俺は頭の中でカンカンに怒って、心の中ではさめざめ泣いてた

そんなこんなでやっと高ぶっていた気持ちも落ち着いてきたので、振り向いて何も言ってくれない食満に又悪態をつこうとする。






けど








「えっ、」









そこに誰もいない。









辺りを見回しても食満らしき姿は見当たらなかった。






俺に先に行けと言われて、本当に行ってしまったのか。






普通泣いてる女置いてけぼりにするか!?




何か言うとか聞くとか




しねーのかよっ




俺は状況を把握するまで呆然と立ち尽くしていたけれど、ひとりで泣いてた自分が恥ずかしくて、取り合えずその場から動く事にした。そうして歩きながら思う。



俺の事、本気で嫌いになったんだ

どうでもいいんだ


…って








あ ん の 野 郎〜〜!

許さねえ!

ぜって〜〜〜もう口聞かねえ!

謝っても、此方から無視してやる!

くっそ〜〜〜っ








「ばかっ」













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甘えるって、どうするの。

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続く

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