5.絡めた指が愛になる
自慢にもならないけど、どちらかといえば寝汚いもとい、お布団親衛隊隊員に当たる私が珍しく、朝の光に導かれるようにすっと目が覚めてしまった。
気持ち良く起きようとした刹那、視界に飛び込んだのはコトシロヌシのご尊顔。びっくりしすぎて変な声が出そうになり、慌てて自らの口を手で塞ぐ。そうか、昨夜は自分の部屋に戻らないと決めて、彼と一夜を共に過ごしたんだった。
忙しなく動く心臓の音を聞きながら、改めて間近のコトシロヌシを眺める。やたら長い睫毛とか、目を瞑っていると案外幼く見える顔立ち、あ! 耳の横の髪の一部に白髪が混じってるんだ、今初めて知ったよ。
「ん……朝早くから、何おれの顔見てるの? 思ったより余裕あるね」
もしかして声に出てたと確認すると、うん、しっかり聞こえたけどと報告を受ける。ばれてしまった、不覚。
おれ、もしかして手加減しすぎた? 物足りなかったのという不穏な呟きと、紅玉の瞳から至近距離でぶつかる視線に耐えきれず、慌てて離れようとしたけどそれは叶わなかった。ついでに言えば、結構色んなところが痛いです。特に喉と腰と言いたくない箇所が。
「まだ早いし、諦めてもう少しおれの抱き枕になってよ」
向かい合わせで抱きしめられ、柔らかなコトシロヌシの体温と密着した素肌の心地良さに頭がくらりとする。いつもなら見慣れているはずの剥き出しの肩にさえ、手を触れるのを躊躇ってしまう。
「もう一線を超えちゃったのに、まだ照れているの?」
そういう所やっぱり可愛いよねと言いながら、しっかりと指を絡めた手繋ぎで離す気も逃す気も無いと言わんばかりに私を閉じ込める。
今更逃げたりはしないのに、信用ないなと内心で思う。
確かにコトシロヌシからの行動に対してなかなか答えを出せなかった私だけど、決めてからは早かったと誰も褒めてくれないから、自分で褒めよう。夜更けに部屋に押しかけたのはともかく、私もコトシロヌシが好きだと告げ、大事なものを二つ、彼に受け取ってもらったのだから。押し売りとは言わせない。
一つは私自身、もう一つは真の名。
独神、独り神。唯一が故に名を必要としないが、真実は違う。自分の根源たる真名を語らないのは、私が私で在る為の最後の砦。或いは白い八咫烏と取り交わした、独神として最初の誓い。
八百万界の最後の領域にしては、随分とちっぽけだと思うけど、己が身を守る手段の一つなら黙して置くべきだと考えた。名を呼ばれぬ事に寂しさを感じてはいたけど、開けてはいけない蓋だからと苦しさを伴いながらいつも無理に押し戻していたのは、決して言えない私だけの秘密だ。
ぼんやりとそんな事を考えていたら、混じり合った温かさが沁み渡り、段々と微睡みの中に落ちて行く。
「ふぁ……う、ねむ。……おやすみ、コトシロヌシ」
「おやすみ、愛してるよ。おれのーー」
コトシロヌシは独神さんと呼ぶのではなく、慈しむように真名を唇にのせ、眠りに深く沈む私の耳を、心を、身体中を喜びで満たしてくれた。
彼が、コトシロヌシが居てくれるなら、私はこれからも歩いて行ける。皆んなの希望を一身に受けて潰れそうになっても、きっと文句を言いながら手を差し伸べて立ち上がらせ、一番良い方法を考えてから共に歩んでくれるだろう。
ーーだからコトシロヌシが良ければ、これからも側にいて、側にいさせて下さい。これが私の最大の我儘であり、最小の願いです。
2017/12/09
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