03.終わらない夢と夜


 甘やかに、密やかに、毎夜繰り返される夢。キネマの中の様なワンシーンなら、どんなに良かったか。


 夢の中の哲は無邪気に振る舞い、少しだけ幼さを残しながらも娼婦の様に手慣れた仕草で情事へと誘う。俺の手を引きながらベッドに倒れ、首に腕を纏わせ、濡れた茜色の瞳で続きを請うた。

 自分より幾分小柄な身体を組み敷いて、全身に余す事無く口付けを落とす。唇が肌に触れる、その都度上がる温度と艶やかな声、そして素肌に散る赤い印。首を左右に振る度零れる涙の粒は、きらきらと綺麗。酸素を求め、口を開けた隙に舌を滑らせた。切なげな吐息さえ、吸い尽くす。

 そんな哲の姿を見て、立ち上がり興奮を押さえきれなくなる俺自身。張り詰めた幹を伝い、滴る液を窪みに擦り付け、獣の体勢で一気に貫く。泣きそうな声と裏腹に、体は悦びに揺らめき、汗と色に染まる。

 己が欲だけに流されぬように抗い、想いの丈を込めながら名を呼び片手を握り、細い腰をもう片方でわし掴み何度も打ち付けた。絡む内壁に絞られ、熱く粘った白濁を吐き出した所で暗転し目が覚める――。


 浅ましく、狂おしく。毎夜、頭の中で再生されるワンシーン。醜い俺の心を映した欲望は、互いを破滅へとしか導けない。理解していたのに、鳴り響く警鐘をどこか遠くに聞きながら目を閉じる。

 堕ちていく、光の届かぬ深い谷底へ……。

 ガンガンと、頭の中で喚き散らす耳障りな雑音。煩い、うるさい、ウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイウルサイ!

『凪……どうして?』

 哲の見開いた瞳に映る歪んだ自分と深い絶望にほくそ笑んだ俺は、拒め切れないのを良い事に、薄い唇から劫掠する事にした。

2017/05/13
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