ヒサシ


ヒサシは、垂れる汗を手拭いでぐいっと拭いて眩しすぎる太陽を見上げる。
農業で生活している人にとって、草木を育てる太陽とはなくてはならない存在だ。いくらこの眩しさが憎くても、この光は金になる。
とはいえ農業を営んでいるというよりはヒサシの場合はお手伝いというやつだった。稼業を継いだのは兄の方で、兄夫婦の手伝いをしているだけだ。
もう40をとうに超えてきているが、ヒサシは誰にも言えない仕事に就いている。
デリバリーヘルスだ。40過ぎてもデリヘルボーイとして働いているのだ。
自分が異性ではなく同性を好きと気付いてから、悩みもした。かなり考えて伝手を使ってデリヘルという仕事に就いた。家族には言えないが恥だと思ったことはない。
そう思っていたのも20年以上前だ。今はむしろ農業が本業と言ってもいいほど指名はなくなった。年齢というのもあるだろう。若くてピチピチを選ぶことはあってもこんな年寄りを選ぶ物好きは早々いない。
それに加えてヒサシが住むこの場所は、田舎の中の田舎だ。自然溢れて駅の方までいけばそれなりには栄えているがその程度。しかも少し歩けば自然に囲まれている。
つまりは指名する客が少ないような辺鄙な場所。それと年齢の件も合わせれば指名が少ないのは仕方がない。
農業があれば食っていけるし問題はない。
(そろそろ引退かな…)
同性が好きなのは変わりなくても、もう身体を売るのはやめようと思ってきていた。というのもこの身体では相手もまともに出来ないだろう。
いくら歳を取っても会社の方から退職を促されたりはしない。というのもオジ専という世にも奇妙な人間がいるからだ。
とはいえ昔は溢れるほどあった性欲も見る影がない。
恋人もいない自分が唯一恋愛対象と気兼ねなくセックス出来る仕事にももう未練はない。来週にでも連絡しようそうしよう、そう思って重くなった腰をゆっくり持ち上げた。

そう思った矢先のことだ。ヒサシは突然降って湧いた仕事に目を丸くした。確かにヒサシのいる場所から1時間以内の、駅のそばのホテルにいるらしい。
数年ぶりの仕事で、ヒサシは戸惑った。すっかり男の味を忘れたこの身体で相手が出来るのだろうか。そもそもヒサシの顔も年齢も登録してあるのに、選ばれたことに驚く。ホテルから1時間以内の場所に他のデリヘルたちもいるはずなのだ。
(…どうしよう)
どうもこうもない。これから準備をしなければ。ヒサシは汗のかいた身体ともう何年も使ってないアナルを洗うために風呂場に向かった。

ヒサシは連絡のきたホテルの指定された部屋の前に立っていた。久しぶりの仕事で服を選ぶのにも時間がかかり、デートする乙女かと自分にツッコミを入れた。
そうしてドキドキと憂鬱の混じり合ったままの感情渦巻いて、ここまで来てしまった。こんなことならさっさと辞めておけばよかった。遅すぎる後悔をして、そして部屋のドアをそっと叩く。いっそこの部屋に誰もいなければいいのに。
そんな願いも知らず、中の人物の足音が近づいてくる。
「ヒサシさんですか?」
「は、…はい」
「待ってました。どうぞ中へ」
出て来たのは王子様のようで煌びやかな笑顔を浮かべたイケメンで、ヒサシは驚きのあまりポカンとした。背も高く、テレビで見る俳優のような美形だ。
なんでこんな人が。そう思わずにはいられない。女性から引く手数多なほどの甘いフェイス。微かに香るフローラルな匂い。それと今からセックスをしようとしている自分。まさか、こんなおっさんが来ると思ってなかったと追い払われるかもしれないと思っていたがそういうわけではないらしい。
室内への促しにヒサシが立ち尽くしているのを見て王子様ーー登録名は東宮ーーが戻って来るとヒサシの手をするりと掴んで引っ張る。まるでエスコートだ、自分が女の子のように扱われていることに顔が赤くなる。そんな歳ではないのに。
「写真で見るより可愛いです。こんな可愛い人に相手してもらえるなんて」
「えっ…いやいやあの…!」
可愛い?誰のことだ。ヒサシは是非とも眼科に行った方がいいと勧めたくなった。童顔でもなければ綺麗でも可愛くもないただのおっさんの顔だ。何が見えているんだと突っ込みたくなる。
しかし東宮はスマイルを崩さない。
「焦ってるヒサシさん可愛い」
持たれていた手を、口元に持って行って指先にキスを落とされる。ヒサシは顔から熱が吹き出るんじゃないかと思った。
「あはは…真っ赤ですね」
東宮に導かれて布団の上に座るとそのまま押し倒される。ついに来た。ヒサシは不安を顔に浮かべて東宮の一挙一動を見つめた。東宮はそんなヒサシに少し頬を赤くする。
「そんな、見つめないでください」
「す、すみません…!」
「じゃあ、慣らしますね」
「あの、もうアナルはちゃんと…準備してあるんで」
「そうなんですか?なんだ、楽しみだったのに」
ちょっと残念そうな表情の東宮。この人は本当にデリヘルを呼んだのだろうか。何かと間違えていないか、そう思わずにはいられない。
そんなヒサシも久しぶりの仕事に、自分がすべきことを忘れていた。初エッチの女の子のように導かれるように受け身のままであることには気付いていない。
ヒサシの戸惑いも知らず東宮は自分のとヒサシの前を緩めると、ズボンを脱がしにかかる。そして手を潜り込ませしどしどと濡れたヒサシのアナルに指を差し込む。
「う、わ…っ」
ヒサシは他人の指が入り込む感覚にぞわぞわしながらも、東宮のペニスがしっかりと勃起しているのに目を奪われた。あんなにニコニコしていたのにヒサシに興奮している。
(オジ専なのかな…)
ぬぷっ…ずぶぶ…っ
「ふ、んんっ…あ、ァっ」
「気持ち良さそう…中も熱くてじゅくじゅくに蕩けてますね。早くここに入りたいです」
恥ずかしげもなくそんなセリフを吐かれて、ヒサシが恥ずかしくなる。思わず顔を背けてもじいっと見つめる視線を感じる。
「ぁ、あっ…」
中を指先で擦られるだけで腰の奥からずくずくと熱が広がり、声を自制できない。快感に波打つ身体を、手のひらで撫でられると堪らない。
「だめ、あっ…ん、んんぅっ」
「乳首かわいいです…ピンクでツンとしてて、あんまり触られたことないんですか?こんな可愛いのに」
「う、あっ…か、かわいくない…っ」
乳首可愛いってなんだ。そもそも久しぶりのセックスと愛撫で、身体は異様に敏感だった。乳首を4本の指の凹凸に撫でられるだけでひくひく震える。
「すごい敏感ですね…元々ですか?」
「あ、うう…っひ、久しぶり、だから…ッ」
ぴたり、と東宮の手が止まり何事かと見上げると東宮は眩しい笑顔を蕩けさせる。あまりのイケメンの笑顔に口がぽかんと空いてしまう。なんだその笑顔。
「…優しくしてあげますね」
もう十分、優しいんだけど。ヒサシはそう思わずにはいられなかった。

指で掻き回されたナカは、早く欲しいとひくひく震える。今か今かとよだれを垂らすようにペニスを待つ自分にヒサシは恥ずかしくなる。
東宮はコンドームをしっかり付けると、ヒサシのアナルにキスをするようにペニスの先をくっ付ける。
くちゅ…
はしたない水音にカッと朱がさすヒサシ。
「ふ、ぁ、んっ…」
そのままゆっくり挿し込まれるペニスに少しずつ入り口を緩めていくアナル。奥へ奥へと入ってくる熱にヒサシは思わず口を抑えた。
「ひ、いあっ…あ、ァっ!」
それでも抑えきれず、わななく唇から熱い吐息と喘ぎが止まらなくなる。
「すごい…じゅくじゅくで、熱いですね…気持ち良くてすぐにイきそうです」
「そ、んなわけっ…ぁ、あっあんっ!」
「嘘はつきませんよ、柔らかくて最高です」
ずぶぶ、とさらに奥まで押し込まれ東宮の下生えがあたるくすぐったい感触と、ばちゅんっという水音の混じったような音に額に汗が浮かぶ。
じゅぶっじゅぶっずぶぶぶ…っ
「あーっ、あっ!んァっ!だめぇ、奥きてるっ…!」
ゆっくりと腰を前後させる東宮の動きについていけない。くしゃりと顔を歪ませて抵抗もできず翻弄される。
ずりずりとナカを擦り上げられると身体は勝手にびくんっと震える。
「ぁ、あっ!おちんちんっおく、ひぃいっ…!」
「っ、おちんちん、気持ちいですか…?」
「ぁんっあっあああっ!んっ、うんっきもちいいの…っだめっあうっあんっ!」
東宮は堪らないと言わんばかりにヒサシの胸を撫でて、乳首を指先でコリコリと弄る。アナルも乳首も責め立てられヒサシは頭をいやいやと振った。ビリビリと乳首から刺激が広がり、久しく自慰もしてなかったペニスへと直結する。
つぷつぷと雫が溢れ、重力に従って垂れていく。
「だめぇ…っ!」
「ここも、すごい…気持ち良さそう」
「あ゛ーっ!ひ、いいいいっ」
性感帯を一度に複数も弄られ、頭が真っ白になるような快感に悲鳴のような喘ぎ声を上げるしかない。
先走りを指で掬い上げられるくちゅくちゅと先端の割れ目を指で往復される。剥き出しの神経を撫でられヒサシはシーツにしがみついてひたすら耐えるしかなかった。
暴れてはいけない。仕事を久しく忘れていたヒサシにも叩き込まれたルールがある。
「あ、あ゛っあぁあ…ッ」
それでも快感を逃がそうと手足が動く。しがみつく手のひらを東宮にとられ、そのまま指と指を絡められる。はっと目を見開くヒサシにゆっくりと腰を押し付けてナカを抉られ、首が仰け反る。
恋人のように絡められ、動かせる手を封じられヒサシは出来る何もかもを抑えられてしまい身体はもうガクガクと震えるしかない。
「あ、んんんッ…や、あ゛っはな、してっ…ああんっ!」
「は、…もう、そろそろ、限界のようです」
「ああ゛ーーーッごり、ごりっだめ゛…ッ!」
もう東宮の言葉も頭に入らない。のしかかられ身動きのできないまま腰を激しく動かされる。ヒサシの限界もまた、近かった。
奥のシコリをぐりぐりと突かれ、ばちゅんっと激しく腰がぶつかるたびに何かわからない液体が飛び散る。湿った髪も汗ばんだ身体も気持ち悪いのに、気持ちいい。頭がおかしくなるような快感に、ヒサシはくらくらした。
「あっ、あ゛っあんっ!あ、ひ、いぃ…っくるっき、ちゃうっ……あ、あ゛ーーーッあ、あ!」
「っ、きつ…っ」
射精と同時に締め付けられ整った顔を歪ませて東宮も絶頂を迎える。ぶるぶると震えるペニスをナカで感じながら、ぼおっとした頭で仕事を辞めるのはまだ早いかもしれない。そんなことを思った。




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