(七夕企画)






もわん、むせ返るような夏の空気と涼風が交差した。夕暮れに染まった景色は一面の橙だ。みかん食べたい、あ、でもあれって冬の果物だっけか。じゃあオレンジ?だったらいよかんのが今の気分。そういう問題でもない?よし、とりあえず柑橘系だ。今日のアイスはそれでいこう。と、クラブハウスに入ろうとすれば、ちらり、ピッチに見知った人影が。


(あーあ、)


今日も自主練か、あんまりやり過ぎるのもよくないんだけど、どうしたものか。そう思いながら近づいていく。ボールを蹴り続ける彼は、こちらに気づかない。


「つーばき」

「っっっ!!!う、うす!」

「……お前、相変わらずビビってんのなー」


すんません、そう続ける言葉も、なんだかたどたどしい。達海は小さく笑みを零すと、ちょっと待ってろ、と建物の中に入っていく。5分後、訳が分からずおろおろしていた椿の前に、小さな袋をふたつ持った達海が現れた。


「俺の気分で悪いけど、はい、夏みかん」

「え?あ…!あ、ありがとうございます!!」

「いーえ」


ふたり、ピッチに腰を下ろす。松っちゃん辺りがこの光景見たら、神聖なピッチでー!!とかなんたら言われそうだ。まぁ、これでアイス垂らしたら怒られるかもだけど、大丈夫だろ。


「あ、つかさ、いいの?お前。赤崎に自主練禁止とか言われてなかった?やり過ぎとかで」

「あ…!」


その顔はあれだな、完璧に忘れていましたって顔だな。しゃりり。歯から冷たさが伝わる。第一赤崎と何がよくてつるんでいるのかさっぱり分からん。だって、あいつ口うるさいじゃんか。サッカー的には認めてるからレギュラーとして使ってるけど、椿なんかはぐさぐさ言われてんのに、なんであいつと、……あぁ、そっか。


「好きだからか」

「え?」

「椿。赤崎のこと。付き合ってんだっけ?」

「っ!!?」


あ、ぱくぱくしてる椿は金魚みたいだ。椿が言葉を失って数秒、その口に自身のアイスを突っ込んでやった。すき、か。曖昧に、自分の頭に黒髪のキザヤローが滑り込んできた。好きだと、愛していると、散々睦言を吐いておきながら放置されている自分とは、違う愛され方をしているんだろうな。それが少し、うらやましいなんて。しゃり、がりっ、夏みかんの固形アイスが、音を立てて椿の口へ消えていく。


「落ち着けよ、椿」

「んぐ、」

「そ。噛んで、飲み込め。俺は別に、お前らの仲を咎める訳じゃないんだから」

「かんとく、」

「むしろ、うらやましいよ」


好きって言葉に出来て、態度で、全身で好きって伝えられて。自分はそんなこと出来やしないよ。そう呟けば、椿は怪訝そうな顔でこちらを見遣った。ひぐらしが鳴いている。今まで曖昧なことばかり頭をよぎっていたが、目の前のまっすぐ過ぎる青年を前に、それは叶わなかった。好きな人がいて、想い、想われて、それだけで、それだけで。


「……監督、」

「ん?」

「お、俺は、ザキさんが、だいすきです!!」

「は」


急に聞かされた告白に、アイスを落としそうになる。え!なに!椿どーしたの!そう声を掛ければ、どうもしてません!と、強気な発言が返ってきた。


「俺は、きちんとザキさんが好きです。……恥ずかしいけど、言葉にだって、できる」

「椿、」

「想ってるだけじゃ、何も伝わらないんスよ。言葉にするのは怖いけど、そうしなきゃ一歩も踏み出せない」


気持ちを伝えるために、俺達、言葉があるんでしょう?がつん、椿のその言葉に、殴られたような気持ちになった。


「…っっ、偉そうなこと言ってスミマセン!!俺なんか、話すの苦手な方なのにっ、」

「Lay all your love on me.」

「え、」






「Knowing me,Knowing you.
it's the best I can do.」

「and,please say l love you.」



「Please」







絞り出すような声で、小さく、呟いた。この気持ちが嘘でもあいつに伝わればいい。監督、言ってることなんか分からないだろうに、椿から優しい声が落ちる。いいんだよ椿、しゃく、アイスを口に入れる。このアイスと共に、想いも飲み込んでしまうから。でも、もしも、想いを掬われたら、



















「へぇ、そうだったんだ」



その声に、弾かれたように振り返る。その先には、今1番聞かれたくない相手がいた。口の中に残った夏みかんが、しゃく、と小さな音を立てて溶ける。


「あ、えと、俺、行きますね」

「ふふ、バッキーご苦労様。次の試合は多めにパスを回すよ」

「あざーっす!」


いくな、椿いくな。頭をよぎる言葉は、声として外には出ない。代わりに近づいてくる男を睨みつける。そんな顔で睨まれても怖くないよ。ふわり笑う顔が、今はただ憎いだけ。……顔から火が出そうなんだっつうの。


「そんな風に想ってくれていたんだね」

「………別に」

「残念、さっきまであんなに素直だったのに」


しょうがないよね、タッツミーはあまりそういうこと言わないもんねぇ。その瞬間、目の前が真っ赤になった。ぐ、と襟につかみ掛かる。あ、泣きそう、頭の片隅でそんなことを想った。


「だったら!!」

「っ、」

「俺がそういう奴って分かってんなら!ふらふらしてんじゃねぇよちゃんと捕まえとけよ…!」

「た、タッツミー?」


頼むから、ほっとくな。小さく小さく放った本心。アイスと一緒に飲み込んでしまおうと思った、大切にしてきた言葉。大切にするどころか、かなぐり捨てちまった。ああもういやだ。と、くしゃり、頭を優しく撫でる感触。


「……ごめんよ」

「…………」

「タッツミー、束縛されたりするの嫌いそうだからさ。ちょっと距離おいてたんだけど」


必要なかったみたいだね。そのまま腕を掴まれ、そのまま抱き寄せられた。久しぶりのあたたかさにくらくらする。


「なんだか、久しぶりにタッツミーと繋がった気がする」

「…………」

「同じこと考えてた?」

「……ん、」

「あれ、これって織姫と彦星みたいじゃないかい?丁度今日は七夕だしね」

「えええ、超取って付けた感じじゃんかそれ」

「ふふ、……愛してるよ」

「……ばーか」







あの日、君が言ったアイラブユー!




(あなたの愛を、私に下さい)

(あなたなしじゃ生きられないの)



(だからお願い)

(愛してると、言って)




(ねぇ、)




END.
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お望みとあらば、いくらでも。



7Lovers』さまに参加させていただきました!
なんつーすてき企画!

王子はわざとタッツミーをほっといたと思います。
ジノタツはいつもいちゃこらしているイメージなので、ほっとくとかわざと以外に考えられない!
そして英語間違えていたらすみません…。

たっつみー、つばき!
キミらにたくさんの愛をこめて!




おまけ!



ぼすんっ


「あ?……椿?」

「…………」

「どうしたよ」

「おれ、しあわせ、です」

「…………」

「…………」

「なぁ、椿」

「はい」

「手ェほどいて」

「……いやです」

「違くて。…俺も、お前、抱きしめたいから」



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後ろからむぎゅ!っとつばき!
若手コンビかわいいです*

お粗末さまでした!