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リハビリついでにCardWirth【リプレイ記】

■プロローグ


 建物は燃えていた。

 交易都市リューン。
 神聖アルスター帝国属国、西方諸国がひとつトラキア大公国の一都市である。旧文明遺跡の上に作られたとされるこの都市は帝国内交易路の中心であり、近辺からは古代遺跡が多く発見されるため、商人は勿論のこと、学者を初めとした魔術師連盟、好事家、そしてそれら上流階級や知識階級に雇われたトレジャーハンターや冒険者など、様々な人々が集まる街であった。

 その夜、燃えていた建物はリューンの北外周壁へ沿うようにして軒を連ねていた安宿のうちのひとつだった。
 宿にぶら下った看板には、随分と癖の強い手で“HangedMan'sINN”と書かれていた。
 冒険者の常宿として、リューンでも其れなりに古い宿屋であった。木造二階建ての建物のうち、一階部分の中ほどが綺麗さっぱり吹き飛び、火は周囲を照らしながらも残骸部分を舐め取ろうと更に燃え盛る。小さな破裂を繰り返しながら噴き出す炎に、周囲の宿からは人が顔を覗かせ、或いはだらしの無い格好のまま──半裸であったり、或いはインナーもむき出しであったり、油染みの出来た服一枚羽織っただけであったり──飛び出してきて、燃え上がる火を見上げ、隣り合う他人へと見知らぬ宿の住人達の安否を訪ねたりしていた。
 少年は、偶々その日その夜、首吊り生贄亭へ宿泊していた。
 頬やむき出しの腕のあちこちを煤で汚した少年は、赤鳶色の髪をした長身の男へ抱えられ、呆然と激しく揺れる火を見詰めていた。側では少年の姉が、同族の──やはり長身の──男に支えられ、何度も咳き込んでいる。四人とも、灰や煤で酷く汚れていた。着の身着のまま取るものも取らずどうにか逃げ出たのだ。荷物は全て宿の、丁度火が舐め上げている場所の真上の部屋に置いたままであった。
 天を焦がさんばかりに立ち上がる火の粉と煙に、空は愈々黒く。染みのように黒煙は広がる。気がつけば、辺りはすっかりと人だかりが出来上がり、四人から少し離れた所では紙の束を抱えた壮年の男が、若い娘を胸に支えて人だかりに指示を飛ばしていた。
 どこかで見た顔だ。
 ぼんやりと、いつもよりゆっくり瞬きをして少年は男の汚れた頬や額を見遣る。男は癖の無いアルス・トゥルスを叫び、彼に指示された人々は、寝癖だらけでフケの絡まった髪や臭い立ちそうなシャツや黄ばんだような下着も剥き出しの風体とは裏腹に、素早く迷う様子一つ見せない慣れた仕草と声色で魔術構成を展開し、詠唱した。
 あちこちでマナが収束し、弾けて水が迸る。小さな半透明の精霊たちは呼び出され、極局地的な雨を降らせ。煙は次第に水蒸気混じりの白いものへと変わり始めていた。
 火災と消火による上昇気流が、少年の灰に塗れた金髪を強く揺らす。
 安堵と驚きと、確かな罪悪感が綯い交ぜになったような複雑な心境をもって見守っていた四人へ。周囲へ指示を飛ばしていた男は火災が収束に向かっていることを見て取った後、彼自身が支えていた娘に一言二言声を掛けてから、此方へ近寄ってきた。
「……あんたたち、ちょっといいか」
 その夜、一軒の宿が燃え。
「ご、ごめんなさい。まさか火にかけたお鍋が爆発するなんて思わなかったの」
 四人の異邦人は、銀貨五十万枚の借金を負うこととなった。


[了]


[Re]
シナリオ:------
バージョン:--/--/--更新版
製作者:------
対象レベル:--〜--

取りあえず、リプレイの目的を「五十万sp溜まるまで」に決定。
*Ask基準でひとつの依頼につき報酬基準は1000sp(アイテム込み)、つまり500ほどシナリオをこなせば達成可能(理論上)。
今後この部分にはシナリオの感想などを記そうと思っています。

画像著作権
宿の主人:GroupAsk様
背景画像:vipwirth保管庫より月食写真を使用

掲載SSに使用されている画像の著作権者様方。
問題がございましたら、大変お手数ですがご連絡をお願いいたします。適切に対処させていただきます。

*アルス・トゥルス……「帝国語」とも。アルスターの公用語。

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