発見された忘れ物の存在

「………ない………」

クロフトウェイは自室で通学に使っているバッグを覗き込んで、呟いた。


何がないかと言えば、今日の宿題に使う数学のテキストがないのだ。

数学と言えば、あのベルゼビュートの部下である、ウコバクが担当している。
忘れた…なんて言えばなにをされるかわからない。


「ヤバい…マジヤバい…」

クロフトウェイは机の上の携帯を取り出した。
リダイヤルを押し、履歴で電話する。


『はい…』
3コールで相手が出た。
もの凄く不機嫌な声は白蘭のものである。

「あのさ、今日の宿題に使う数学のテキストだけど…」
『あたし、学校に忘れてきたから』
「葵にあるか訊いて」

受話口から、白蘭の鼻で笑う声がする。

『あたしが借りて今やってるに決まってんじゃない』
「じゃあ、終わったら持って来…」
『ふざけろよ』
「あ!」


…切られた。


「なんでぃっ!それでも友達かよっ」

悪態をつきながら、次に履歴からリダイヤルした相手は


『はい。クロ?』
アルシューゼだった。

「数学のテキスト、家にある?」
『あるけど?』



これはいける!



「これから持って来て」

電話の相手が黙った。
電話の向こうで、ガヤガヤと数人の男の声。


「もしかして、今バイト終わったん?」

『おう。そのまさかだ』

「悪いねぇ、こんな遅くに持って来てもらえ…」
『死んでしまえ』
「ひどっ」

電話は切れてしまった。


どうしよう…


途方に暮れながら、再びリダイヤルで電話する。

「もっしもぉし。クロだよぉ。ウィンて、数学のテキスト…」
『ブツ…ツーツー…』
「って切んの早すぎ!」

人選ミスだ。明らかに人選ミス。
あのウウィングがこんなこと、話すら聞かないのをわかっていたくせに。



あぁ…廊下の向こうからミルフィーが呼んでる…



取り敢えず、携帯を持ったままリビングへ移動した。


「電話、していたんですか?」

珈琲にミルクと砂糖の入ったマグカップを、渡してくれたミルフィーはクロの携帯を見て問いかけた。

「うん。ちょっとね。あ、もしもし?…って……なんであっきーさん……」

累樺に電話して秋人が出た。

「数学のテキスト借りようと思って。持ってきてくれたら嬉しいな」
『持って行ってやってもいいが、ボコられると思え』
「……遠慮します…」

電話を切れば大きなため息。


新聞を読んでいたダークが、顔を上げた。

「なんやねん。テキスト忘れたんか?」

クロフトウェイは情けない顔でコクコクと頷いた。

この夜道、独りで出かけるのは怖すぎる。
よって、借りる身のくせに、持ってきてもらおうとしているのだ。

「だいたい、自分で取りに行ったらどうやねんな。持ってきてもらえるわけがないねん」

テレビ欄を見始めるダーク。

いじけたように携帯を弄びながら、クロフトウェイは呟くように言う。

「だって、一人じゃ怖すぎるじゃん」


その言葉に、ダークは煙草に火をつけながら呆れたように言った。

「悪魔のくせに、なんで幽霊が怖いねん」

その言葉に、クロフトウェイはややヒステリックに言う。

「幽霊と悪魔は別もんっスよ!」
ダークは相変わらず呆れたようにため息をつく。

「だから、学校に取りに行くっちゅう選択ははなっから除外されとんねや…」

再びコクコクとクロフトウェイは呟いた。

ダークは読んでいた新聞をテーブルの上におく。そしてスタスタとドアへ向かった。

「ミルフィー。このアホに付きおうて、学校にテキスト取りに行ってくるさかい、先ぃ風呂入っとき」

振り返って言った。
クロフトウェイの顔はすこぶる嬉しそうで、主の後に続いた。



丁度ヒマしとったところや。十分怖がらせて楽しませてもらお。



コートを羽織る主の顔がどれだけ意地悪い笑みを浮かべているのか、クロフトウェイはまっ………たく知らなかった……



クロフトウェイの運命やいかに!?

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