私…

皆さん、『三本足のリカちゃん人形』って知ってますか?

都市伝説で有名な『三本足のリカちゃん人形』は、公園などの公衆トイレや電話ボックスの片隅にちょんと置いてある。
それを見つけた人にリカちゃん人形は

「私リカちゃん。呪われてるの」

それを繰り返して言う。ただ、それだけ。
しかし、その言葉が頭の中でリフレインしていずれ耐えきれず、自殺するか発狂すると言われている。



「…というリカちゃん人形はこれだよ」

嬉々として床に出したのが、ごく普通のリカちゃん人形。だが、そのリカちゃん人形の足と足の間に…足。

「…なぁ、楓。この足はどこから生えてんだ?」

トントンと晴明はリカちゃん人形の真ん中の足、いわゆる三本目の足を指で叩いて問う。

「右と左の足の間じゃないかな」

『私リカちゃん、呪われてるの』を繰り返すBGMに楓と晴明は考える。

「やっぱりチン○が育った?」
「いやいや、リカちゃんは女の子でしょ」
「じゃあ、クリト…」
「言わせないよ!」

晴明が言い終わる前に楓は彼の肩を掴んだ。まるでどこかのお笑い芸人だ。
「…で、これは本物か?」
傍らにおかれた麦茶を一口飲んで、晴明が訊く。
確実に頷く楓。

「桜と椿が街中探しまくったんだから間違いないよ」

唇がゆっくり弧を描く。前髪に隠れた目もにっこりと笑っているのだろう。

「じゃ、とりあえず貼ってみるか」

晴明がポケットから札を取り出してリカちゃん人形の額に貼り付けた。
すると、リカちゃん人形は野太い悲鳴をあげて札をかきむしる。

「やっぱりそれ系らしいね」

今度は楓が袖口から数珠を出して、札をかきむしるリカちゃん人形を数珠で叩いた。
数珠で叩かれれば、リカちゃん人形はビクンと飛び跳ねて二人から離れて床に落ちた。

「そんなに力入れてないのになぁ」

首を大きく左右に一回ずつ傾げて言った。

リカちゃん人形は落下した拍子に半分以上剥がれた札を自力で剥がしている。

「私、リカちゃん。呪われてるのっ」

シャキンっ!と包丁を両手に装備した。

「話と違うな」
「多少違いはあるでしょ」

戦闘体勢のリカちゃんと真逆で、晴明も楓ものほほんとしている。

「呪われてるの!」

リカちゃんが二人に襲いかかった。
…が、ぺしっと楓に数珠で叩き落とされる。
そこへ晴明が札を張り付けた。

「滅」

緊張感のない呟くような声で晴明はリカちゃんの終わりを告げた。

リカちゃん人形は野太い断末魔をあげ、黒い靄を発する。
靄は空気に溶けるように消えた。

「なんか、呆気なかったね」

楓が床に転がったリカちゃん人形を手に取りながら感想をもらす。

「そうだなぁ。もっと手応えがねぇとつまんねぇ」

二人は境内に出る。傍らに落ち葉の山。
楓はそこにリカちゃん人形を放り、晴明が火をつけた。


しばらくすると、いい臭いがしてくる。

「兄貴、芋くれ芋」

桜と椿も臭いにつられてきた。

4人で焼き芋を食べていると、ふと思い出したように桜がリカちゃん人形の行方を問うた。

「焼き芋の原料になったよ」


…………


パチパチと焚き火の爆ぜる音。
「ふざけんな、このロン毛阿呆坊主ぅぅ!!」

桜と椿の悲鳴に似た暴言が厳禅時に響いた。




今回はおしまい

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