初恋と失恋と僕の罪
その頃、僕はヤンチャでさぁ。
バイクがとにかく好きで、よく峠を走ってたんだ。
ムリなスピードでカーブに突っ込んだりね。
それで事故っちゃって入院。
怪我は大したことはなかったんだ。
奇跡的に右足骨折と左腕打撲だったんだよ。
そこで、その運ばれた病院で僕は会ったんだ…彼女と……。
彼女は外科医で、とても優秀な人だった。
美人でね、頭も良くて優しくて。結婚してないのが不思議だった。
バカやってた僕をよく叱ってくれたよ。
彼女にとって僕は、弟のようなものだったんだ。
なんで結婚しないのか訊くと悲しそうに笑うの。
あんまり愛しいと触れないよね、怖くてさ。
消えてなくなりそうだった。守りたかったんだよ、僕は。
……本気で好きだった……。
彼女には大切な人がいたよ。
植物状態になって2年はたっていた。
いつ目を覚ますか、それとも二度と目を覚まさないのかわからない人。
でも、彼女は待っていたんだ。その人が目を覚ます日を。
それを知った時ね…可笑しくて悔しくて憎くて……どうしようもなくなったんだ。
それで、思った。
───こいつさえ、死ねば……
もう、死んでいるのと等しいくせに、彼女を縛っていることが憎くて、生きている僕を見てくれないのが悔しくて、嫉妬している自分が可笑しくて……。
夜の病院に忍び込んで、生命維持装置のスイッチを、切ったんだ…。
誰も僕がやったなんて気が付かない。
完全犯罪だよ。
大喜びしたさ。
これで彼女は自由だ。これで彼女は僕を見る───って……。
でも……彼女は遠い外国へ行くって言ったんだ。
内戦が酷い国へ行き、内戦で苦しむ人々を救うんだって。
自分は医者だから…何より彼が、僕が止めを刺した彼がやりたかったことだからって……。
僕は、止められない……。
彼女は出発の時、そっと僕に言ったんだ。
「彼を解放してくれてありがとう」
って……。
知ってたんだよ、彼女は。
はは…残酷だよね。
僕がどんな思いであれを切ったか知らないくせに、ありがとうだって。
あの人は彼女の心を持って逝ったんだ……。
僕はその日、バイクをとばしたよ。峠をムリなスピードで……。
目の前から大型トラック。
耳が裂けそうなくらい、うるさいブレーキ音。
黄色い月が赤く…赤く染まっていく……。
それが僕が最期に見たものだったよ。
僕は罪を犯した。
その僕に与えられた罪は未来永劫、記憶も無くさずに生き続けることなんだ……
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