1.
ここは姉川。目の前には浅井軍。雑兵の奥に見える二人は私の義弟と妹…。
織田が朝倉を攻めたことにより、浅井が織田に立ちふさがった。
お互い譲歩はあってもいいのかなと思うのは、私の甘さなのか…。
「お犬姫様、見てて。蘭丸、誰よりも殺すから」
蘭丸…無邪気に言うんじゃないわ。
「お犬。無理なら退いてちょうだい。初陣で身内と戦うのは辛いでしょう?」
義姉様…その気遣い、市にもしてあげて。
私は…この戦は間違っていると思うの。兄様…兄様…止めて…。市と長政を攻めないで…。
「市は!市は長政様の妻だから織田には戻らない!長政様のそばにいるの!」
あの市が精一杯声を張り出してる。お願い、兄様…。
「うつけが…」
地を這うような兄様の声。
「市ぃぃ!」
兄様の声が響く。兄様が市に斬りつける。
長政が兄様の太刀を止めた。
「夫婦揃って滅びを選ぶか。ならば滅びよ!」
「兄者ぁぁ!どっちがうつけじゃぁぁ!!」
たまりかねて思わず薙刀の柄で兄様の後頭部をどついた。
「妹夫婦を潰してなんになる!不毛だ、マジで不毛だ!どいつもこいつも頭冷やせ!」
「犬ぅぅ」
ギロリと兄様に睨まれる。…が、怖いわけがない。
「あぁ?兄弟喧嘩してる場合?まずは裏切り者を潰すのが先でしょ。つか、周りは敵だらけなんですけど?兄者はそんなことも分からないほどお馬鹿さんなんでちゅかぁ?」
切っ先を向けられる。こっちも向けてやる。
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