なんだか消えてしまいたい気分だ。
自分が男を好き、なんて思いたくもないけどこれはもはや確実な事だった。しかもよりにもよって相手が幼い頃からの親友であったりして、我ながらなかなか追い詰められている。 好きだなって意識したのはつい最近の事だった。プール開きの時の話だ。ハルが、プールから上がったときに俺を見て笑った。その顔が何故か脳裏に焼き付いて離れなかった。すごくすごく綺麗だった。 俺はタオルで赤くなる顔を必死に隠しながらハルから視線を反らしたが何も知らないハルは「真琴」としきりに顔を覗いてきて心臓がばくばくだった。 確実にあのとき、今までの俺は死んだ。ハルを友達として見れなくなった。それはとても悲しい事だ。唯一無二の親友がひとり、いなくなってしまったのだから。
「ハル」 「ん」 「きちんとベッドで寝な」 「ん」
ハルは俺にもたれかかりながらうとうとと長いまつげを揺らした。今日は俺の家にお泊まりでゲーム大会だ。正直辛い状況であるがやっぱりハルはお構い無しだ。だって俺たちは親友だから。しんゆう、だから。
「最近真琴泣きそうだよな」 「え」 「部長押し付けたの嫌だったか?」 「いや、そういうのじゃなくて」 「もしかして、泳ぎたくない?」 「ちがう」 「だよな、真琴は泳ぐの好きだもんな」
俺って泳ぐの好きだったのかな。もうわけがわからなくなってきた。ハルと一緒にいるのがあまりに当たり前すぎたのだと思う。水の中を漕ぐのは気持ちがいいし、達成感だってある。でも、今はこの水にハルを取られてしまうような気がしてならないのだ。
「俺は一番にはなれないんだ」 「ん?何の話だ」 「ハルは、泳ぐの好きだもんな」「何を今さら」 「俺は、もう、わかんなくなって、きた」
声が震えていて、自分が泣いてることにようやく気がついた。ハルは驚いたように目をまんまるにする。ハル、はる、俺は掠れる声で何度もハルを呼んだ。喉が焼けるように熱い。ハルが少し困ったようにしゃくりあげる俺の背中をぽんぽん叩いた。こんな気持ち、知りたくなかったよ。
ハルから微かに香る塩素の匂いが、いまはただただ憎らしかった。
20130806
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