「紙飛行機みたいに僕も何処かに飛んで行っちゃえばいいのに」と屋上で牛尾が言うとき、あいつの顔はいつもどこか寂しそうだった。「そんなに簡単にいかねえよ」 笑う俺に、やっぱり牛尾は笑顔で(そっか、)(そうだね)と呟いた。俺には一体全体、この男が何故モテるのか不思議でならない。たしかに顔は良く、金持ちでもある。が、こんなへらへらと笑う野球馬鹿、どこがいいと言うのだ。理解不能だ。俺は溜息混じりに鞄をガサゴソと漁ると適当な紙に手を伸ばした。保健室からのお知らせ、何て言う小学生に配るような内容のプリントが出てきた。おれは少しだけその紙に書かれている文字を見ることもなく躊躇いもせずそれを折った。すると牛尾は、微かに戸惑った顔をしながら「いいのかい」とだけ呟く。





「別に、こんな紙良いだろ」

「まあ、風邪が流行ってきたから気をつけろ、って言うだけの内容だけど、さ」






 牛尾はまたへらへらと笑う。いらいら。お前のそういう顔がムカつくんだよ。言い放つ俺に牛尾は酷く傷ついたような顔をして「ごめん」と呟く。ああああ!なんなんだよ、お前は。いらいらいらいら。俺を苛々させる事に関してのプロフェッショナルなのか、お前は!だとしたら、そんなものお断りだ。俺は何も言わずぴゅうう、なびく風に紙飛行機を預けた。紙飛行機は真っ直ぐ、ぶれることなく吸い込まれるように小さくなっていく。それを牛尾はキラキラした顔で見つめる。子供みたいにフェンスから身を乗り出しながら。







「ね、屑桐くん」

「……なんだ」

「甲子園、一緒に行こうね」







 あの紙飛行機みたいに、ずっとずっと真っ直ぐに、強く。そう、きらきら笑う牛尾におれは「当たり前だろ」つられて笑う。雲一つない、綺麗な青空と真っ白な紙飛行機がただただ俺達の上を飛び交っていた。











20100627



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