「お兄ちゃんは、」
どうして逝ってしまったんだろう。わたしは泣きながら呟いた。うわごとのように、まいにちまいにちまいにち。だから、わたしは初めてアコに会ったときお兄ちゃんの生まれ変わりかと思った。小説家志望で、顔もどことなく似ている気がする。わたしはアコにお兄ちゃんの影を見ていたんだろう。優しくて、だいすきなお兄ちゃん。3年たっても忘れられない。わたしはアコにゆっくり抱きしめられながら(わたしは本当にアコが好きなのだろうか)と考えた。アコは優しい。だけれどどうしてもお兄ちゃんと重ねてしまうわたしが居た。本当はお母さんがわたしのせいじゃないって分かってることだって知ってた。だけど、わたしもお母さんもあの日から一歩も動きだせないまま刻々と時間だけが過ぎていった。ちっ、ちっ、ちっ。響く時計の秒針にわたしは涙を飲み干した。
「ね アコ」 「なあに、レイコ」 「あのね、」
そこで、止まる。つまる言葉に反してぽろぽろぽろぽろこぼれ落ちる涙。あのね、あのね。そこから先が進まない。わたしは壊れた機械みたいにそれをずっとずっとリピートした。アコはまた優しくわたしを抱きしめた。いつもみたいに、伝わる温度。優しい目。だけど今日はそのあたたかさがとても痛かった。
20100630
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