「かぜまるさあん」



 遠くでゆっくりおれを呼ぶ声がする。その声はだんだん大きくなって、しだいにしょんぼりと悲しそうに聞こえてくる。ここで声の持ち主の前に姿を表しても良いのだがおれはなんとなく(暫らくここに身を潜めていよう)なんていう意地の悪い考えをもった。今も彼は情けなく眉を下げて潤んだ瞳でひたひた廊下を歩いているのだろう。そう思うと、なんだか笑顔が溢れてこぼれ落ちそうになる。こういうのも独占欲というのかもしれないな、とおれは思い切り酸素を吸い込んだ。あいつがおれの事で一杯一杯なのが、とてつもなく嬉しい。少し鬱陶しいと思うときもあるけれど、この声が響かないとなんだか寂しいとまで思うのだ。




「みやさか」

「かぜまる、さん!」




 ぱああ、宮坂の顔がしだいに明るくなる。毎度毎度の事だがこの瞬間おれは(自分は必要とされているんだ)と確信するのだ。そして宮坂は思い切りおれに抱きついた。その反動でおれはバランスを崩して後ろに倒れて軽く頭を打った。ごつん、鈍い音が響く。その瞬間宮坂は「大丈夫ですか!?」とあわあわし始めた。そうだな、まずはおれの上からどいてくれ。そう言うおれに宮坂は「はい!」と俊敏に立ち上がりにっこり微笑んで手を差し伸べた。



「意地悪したから罰が当たったのかな」

「え なにか言いました?」

「いいや、なにも」




 そういって言葉を濁すおれに宮坂はゆっくり微笑んで隣に座った。そうか、幸せってここにあるんだ。おれはつられてゆっくり微笑んだ。夕焼けが俺たちを優しく照らしてる。緑色の宮坂の瞳がほんのり赤みを帯びた橙色に染まっていたのを、おれはしっかりと脳裏に焼き付けた。










20100331



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