「イオリン、ハグしていい?」



緒方さんが空気が漏れているような、力ない声でそう呟く。ハグしていいも何も、答える前に彼の両腕は腰に回っていたので俺はため息をつきながら彼の頭を撫でた。
緒方さんが遊びに行っていい?と唐突に家に来た。この人は無駄に明るい人だ。いつも楽しそうに笑っている。そんな人も、こんなふうにしょんぼりと眉を下げるときが時たまあるのだ。彼は落ち込むたび俺のところに来ては、「充電」と称して俺に抱きつく。何故俺なのかは知らないが彼いわく「イオリンならいいよ」とのことだ。全く答えになってない。

そんなことは置いといて、俺は項垂れている緒方さんの長い髪を指に絡ませながら「今日はどうしたんですか」と声をかける。緒方さんは「あー」とか「うー」とか赤ん坊みたいにうなり声をあげながら俺の腹部にぐりぐりと頭を埋めた。それがちょっと痛いのとウザかったので俺はぺしんとそのつむじを叩いてやった。すると緒方さんはうっすらと涙を目に浮かべながらもやっと顔を上げた。



「イオリン、痛い」
「俺もちょっと痛かったんで」
「イオリン優しくない」
「胸を貸してあげた相手によくそんなこと言えますね」


緒方さんは情けない顔のまま、また俺の腰に腕を回す。つぅ、細い指がシャツの中に入ってきた。俺が少しだけぴくりとすると緒方さんはやっと少しだけ笑った。


「イオリン背中弱いよね」
「…緒方さん、それ以上は…」

「きちんと、我慢するから。迷惑かけないから、圭ちゃんにバレないようにするから、」


そう呟く緒方さんの顔は今にも泣きそうだ。俺はまた深くため息をついた。充分迷惑だが少しばかり緒方さんが可哀想に思えた。あと、こういうしおらしい緒方さんのことは案外好きだった。


「…仕方ないですね」


そっと左手で部屋の鍵を閉める。今からは秘密の時間だ。圭が気づかないように、こっそりと。それが俺たち二人のひみつだ。そして彼の甘い香水の薫りを感じながら俺は(この人に迷惑かけられるのも嫌いじゃないな)と思うのだった。








20130324



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