きーりのせんぱい。そういう俺に先輩は気だるそうに眠い目を擦った。
ついさっきまで先輩は机に突っ伏して健やかに寝息をたてていた。同じタイミングで動く背中、俺は暫くそれを見ていたが、ついに飽きた。そこで先ほどのやりとりに戻るわけである。


「なんだ、狩屋か」
「なんだって、ひどくないですか」


どうせ神童じゃないんだ。とかいういつものパターンだろ。俺はこの人の神童中毒っぷりには飽き飽きしている。あれをするにも神童これをするにも神童。霧野先輩の世界は神童先輩が中心に回っている気がする。だがしかし、俺のこの考えは次の霧野先輩の言葉で崩壊するのだ。


「…おまえ睫毛長いな」
「はぁ!?」


ずい、霧野先輩のやたらと端正な顔が近づく。わ、わ!?必死に狭い教室の中で後ずさる俺に、近づく霧野先輩。間違いない、この人、寝惚けてる!!つるっ、ずってーん、どんがらがっしゃーん、ゴンッ。俺は遂に足を滑らせ机を巻き込んで後ろに転んだ。最後の音は俺が思い切り頭を打った音である。痛い。生理的な涙がじんわり出てくる。


「おい、狩屋大丈夫か?いますごい音したぞ」
「大丈夫な、わけ!!!」
「ちょっと見せてみろ」
「ぎゃ、いたっ」
「あーあ、たんこぶ」


霧野先輩はふんわり俺のたんこぶを痛くないように撫でると「保健室いくぞ」と無理やり俺を立たせた。


「うわ、良いですって。別に」
「良くないだろ。お前が勝手に転けたとは言え俺がお前にキスしようとしたのが原因なんだし」


「え」



いま、俺は霧野先輩からとんでもない言葉を聞いた気がする。え、え?待て、きす?霧野先輩いま俺にキスしようとしたの?俺は頭がくらくらする。これは頭を打ったからじゃない。霧野先輩の意味不明な発言に目眩がした。



「霧野先輩」
「ん?」
「それ、浮気じゃないの」
「は?なんで浮気だよ。俺は恋人なんかいないぞ」
「いや、霧野先輩、神童先輩のこと好きじゃん」


そう目を反らしながらいうと霧野先輩は目をまんまるくしたあと大きく笑った。


「神童は大切な親友だよ、よく間違われるけどな」
「えー、意外ですね」
「まあ、昔は好きだったけどさ、よく考えたら友情だったんだよ、神童には」


そうなると、霧野先輩の友情は愛よりすごいらしい。前々から変わってる人だとは思っていたけれどまさかここまでとは思わなかった。
霧野先輩の緑色の瞳と目があった。途端、先輩の目が真剣なものになる。どきり、俺の胸は高鳴った。



「ところで狩屋」
「なんすか」
「俺、今からお前に告白しようと思うんだけど、」





20121006
収拾がつかなくなりました



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