貴方とはたくさんたくさん約束をしました。毎日部活帰りにこの公園で会って今日あったことを報告しあうこと(別に情報交換とかじゃなくて、今日は眠かったとか、そういうたわいもない話しをするのです)もそうですが(身体に気をつけて)とか(無理しないで)とか(嘘つかないで)とか、そのような約束をしていたのです。なのにたいへん努力家で優しい優しい貴方は今日も約束を破ります。強くなるためだからと危険な練習だってするし限界まで無理をするし。なによりわたしが悲しいのは、そのことをわたしに話してはくれないことです。貴方がけしてわたしの前でその長い袖を捲らない理由、ちゃんとちゃんと知ってます。そこにはたくさんの擦り傷なり真っ青に鬱血した後があるのです。それは無論練習で出来た傷です。そこで、わたしが心配すると思う貴方は平気な素振りで今日も長袖長ズボンというスタイルで登場します。暑いな、汗をかきながら貴方は言います。半袖にスカートのわたしには、少し肌寒いくらいです。





「それなら、腕捲ればいいじゃないですか」

「いや、あの、それは」

「駄目な理由でも、あるんですか」

「理由は、ない、けど」





 残念なことに貴方は嘘が下手です。いまどき珍しいくらいに、優しくて素直なのです。そんな貴方だから恋をしたのではありますが、ここまで嘘が下手な人をわたしは見たことがありません。お兄ちゃんも下手だったけど、貴方ほどじゃなかった。そんなことが頭を過ぎります。すべてを知っているのになにも知らない振りでいるわたしは意地が悪いでしょうか。





「源田さん」

「ひぁ、音無?!」





 わたしは思い切り源田さんのシャツをめくりました。ここは公園ですがもう時も遅いのでさっきまでいた子供達もからっきしいません。白い肌にたくさん浮かぶ青黒い跡。ゴールキーパーって、大変なんだなぁ。わたしはしみじみとそれを見つめます。そんなわたしを源田さんは意味がわからないといった様子で顔を赤く染めていました。





「源田さん」

「えっと、音無、これは」

「………ひどいです」





 別に暴力でついた傷ではないとわかっていても、好きなひとのボロボロな姿はこちらまで悲しくなります。わたしにきちんと言ってくれたら後が残らないようにきちんと応急処置するのに。そんな考えが頭を過ぎりました。わたしはぎゅうう、お腹をだしたままの源田さんに抱き着きました。源田さんはよりいっそう顔を真っ赤にします。





「音、無?」

「源田さんは、残酷ですね」





 約束したのに、破るなんてひどいです。全部本当のこと、なんて無理かもしれないけれど、そんなふうに嘘はつかないでほしい。それはわたしが悲しいというより、源田さんに気を使わせている自分が嫌だからです。優しさが痛い、なんてわたしは貴方を好きになって初めて知りました。べつに、貴方と一つになりたいだなんて思いません。なんといっても、私たちは個々の生き物ですから、どんなに頑張ったって、私たちは同じものにはなれっこないのです。





「音無」

「え、あ、はい!」

「……少し痛いんだが」





 源田さんはゆっくり不器用に笑いました。そんなに力入れてないのに痛いなんて、しかも口に出すまでなんて、相当なんだなあ。わたしはしょんぼりと肩を落としました。今度から湿布も冷却スプレーもいつだって持ち歩こう。そう心に誓います。そして、いつだって真っ先に貴方に駆け寄ってその青をもとのまっさらな肌に治してあげたいと思うのです。










20100404





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