「ね、源田さん!」
「なんだ」
「じゃーん、赤ちゃんができました」
腹部をぽっこり膨らませて音無はこう言った。ジャージの裾からは入り切らなかったクッションと思われる厚みのある布が覗いていた。なんとまあ、お約束な遊びである。こんな冗談、今時カップルでもやらない。それに大体、赤ちゃんができる要因となる行為にまで、俺達は達していないのだ。まさかキスをしただけでコウノトリが運んできてしまうはずがない。しかし音無の顔はキラキラと光っていて、どう反応していいのか迷う俺を見て楽しんでいるようだった。
「…音無」
「はい!」
「……えーっと」
「はい!」
「……………その」
口ごもる俺に音無は少し残念そうに眉を下げた。一体俺にどんな答えを求めていたのだろうか。
「…責任とってくれますか?」
「え」
「だから、責任。やり逃げは許しませんから」
やり逃げもなにも、なにもやってないのだが。とおれが言う余裕もないくらいのスピードで、音無はおれのくちびるを奪った。やわらかい匂いがおれの五感をくすぐった。ふと唇がはなれ名残惜しさに瞼を開くと音無がやけに色っぽい顔で微笑んでいた。
20100519 源春おいしい
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