「一目惚れって、信じますか?」

「え?」

「やっぱり、軽い、かなあ。でもでも、絶対運命だと思うんです」



きらきらと目を輝かせて鬼道の妹は呟いた。自分より高い位置にある俺の顔を一生懸命見上げている。なんで、そんなことを俺に聞くんだろうか。俺なんかに聞いても、ためにならないと思うが。俺は曖昧に「ああ、いいんじゃないか?」と呟く。その瞬間彼女はぱああと顔を光らせた。そうして、嬉しそうに「わたし、今恋をしているんです!」と微笑んだ。恋、か。俺の専門外だ。どうせなら、佐久間とか成神とか、そこらへんに聞いたほうが良いのではないか。そう聞くと彼女は「ううん、源田さんがいいんです」と照れくさそうにいった後に「わたしが恋していることは、お兄ちゃんにはないしょですよ?」呟いた。俺はそのときの彼女のなんともいえない顔に軽く微笑むと、「ああ」とだけ言う。



「・・・源田さんって綺麗ですよね」

「・・・え?」

「い、いえ!!なんでもないです」

「・・・そうか?」




 顔を真っ赤にしている彼女をよそに、俺は本題に入った。だいたい、それを知らなければ今回の議論はままならないのだ。



「で、音無は誰が好きなんだ?」

「へ!?あ、えっと」

「俺に相談するってことは・・・佐久間か?」

「いえ、それはないです」



 音無はズバッ、俺の言葉を否定した。佐久間のやつ、可哀相に。嫌いなのか?と聞くと音無はにっこりしながら「いえ。佐久間さんはお兄ちゃんのことが大好きだから、」と笑う。そういわれればそうだな、俺は納得した。その後次々と帝国のメンバーの名前を挙げていくがそれはことごとく外れていった。まさか、不動?と聞いてみたが彼女は唇を尖がらせて「ちがいます」と言った。もしかして帝国のサッカー部ではないのか?俺は頭をひねる。



「じゃあ、円堂とか?」

「キャプテンは優しいけど、恋ではないです」

「・・・豪炎寺、とか?」

「豪炎寺さんは、もうひとりのお兄ちゃんみたいな存在です」

「・・・あとは・・・あ、木暮とかいう?」

「うーん、木暮君はイタズラっ子だけど、弟みたいでかわいいんです。それに、帝国であってますよ」

「・・・?」



  俺はうーん、頭をひねった。帝国のメンバーはみんな言ったはずだ。言い残しもないと思う。あと、残すとすれば、そうだな。




「もう俺くらいしか居ないぞ?」

「!!!」




 音無は顔を真っ赤に染めてあわあわと手を振った。え、まさか、そんなわけないよな。そんなこと、ありえない。俺はごくり、固唾を飲んだ。そして音無に「まさか、」と問い掛けた。




「おれのこと、すき、なのか」

「えっと、その・・・はい」




 かあああ、顔が真っ赤になるのがわかった。そんな、音無が、おれを?どきどきどきどき、心臓の音がうるさい。こんな情けない顔誰にも見せたくない。必死に腕で顔を隠す俺に音無は「何で顔、かくすんですか」と呟いた。音無の顔も、まだ真っ赤だ。



「だって、なんか恥ずかしい、んだ、が」

「もっと、かお、みせてください」





 音無の真っ直ぐな目が俺を捕らえた。がっしりと腕を掴まれ、引き寄せられる。普段は女の子らしいのに、こう言うときだけ音無はやけに男らしいと思った。俺は逆に女々しく俯く。そんな様子を見た音無は「可愛いです」とにへら、笑った。(可愛いのは音無のほうだ)心の中に浮かんだ言葉を、俺はしっかり口に出せない。その時思った。俺は、音無が、きっとすきなんだろう。そんな俺にぐい、顔を近づけて音無は「わたしと付き合ってくれますか?」と言う。俺はあまりの恥ずかしさに目を反らしながらかすかに頷くと、「ああ」と呟いた。

 

 帰り道、音無が不意に「お兄ちゃんに知られたら怒られちゃうかな」と呟いた。それはきっと確かなことである。でも、あの鬼道が可愛い可愛い妹に手を上げることは天地がひっくり返ってもありえないだろう。たぶん、主な被害者は俺だ。だけれど、俺の左頬くらいは差し出してもいいと思った。(鬼道のことをお兄さん、って呼ぶ日が来るなんて、な。悪いな佐久間、俺と鬼道は近いうち身内になるかもしれないぞ。)ふと銀髪の友人の顔が頭を過ぎった。



「まあ、音無は大丈夫だろう」

「源田さんに何か言ったら、わたし、お兄ちゃんなんて大嫌い!!っていってやるんです」

「・・・鬼道が泣くぞ?」

「だって、お兄ちゃんったらいい加減過保護なんだもん。それに、きっとキャプテンあたりが慰めてくれますよ」

「そうか?・・・でも円堂がやったら逆に落ち込みそうだな」




 そう言うと音無は「言えてます」と笑った。デリカシーのない円堂の言葉に「ほっといてくれ!」と涙目で走り去る鬼道の後姿がかすかに脳裏を過ぎる。円堂、そう言うの苦手そうだもんな。ふふ、俺の口からも笑いが漏れた。そして、音無はすこしはにかみながら「手をつないで良いですか?」と聞いてきた。そんなの、良いに決まってる。俺は照れくささに少しだけ指を出すと音無はその指をがっしり握り締めた。伝わる熱が心地よい。人を好きになるって、温かい事なんだな。なぜだかこの熱を、けして失いたくないと思うのだ。その日から、俺と音無は恋人同士になった。









20100402
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音無→恋愛では男前にリード
源田→恋愛は免疫ない乙女
だとかわいいな!なんて




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