「坊」
「ん、何や志摩」
「いや、呼んでみただけです」
「何やそれ」





 俺がこんなことを口走ったのは、誰もいない教室はとても静かでとても煽情的だったからかもしれない。だったからなのかもしれない。「よくあるやないですか、恋人同士のやり取りで。」そういうと坊はとてもとても嫌そうな顔で「何時お前と俺が恋人になったんや」と苦い顔をした。ええやないですか、別に。俺は坊の事好きですよ。せやなあ、どんぐらい好きかって言うと、普通にセックスできるくらいですわ。飄々という俺に坊は目を見開いた。「はあ?」と声をあげる暇もないらしい坊は少ししてからひとつ溜息をつく。この呆れたような坊の顔は、俺は案外好きだったりする。俺は坊の机にひょい、と腰掛けた。




「お前、仮にも坊主やろ」
「いややな、坊しらんの?昔の寺の坊主は男の子に手出してたんやで」
「・・・・・・だからってなあ、お前」
「別に、付き合ってくれんくてもええよ」
「セックスもせえへんぞ」
「いいですよ、今は」




 今は、まだ良いんですよ。坊がいて子猫さんがいて俺が居て、それ以上に求めるものなんかあらへんわ。そういいながら坊の首に手を回す。がっしりとした坊の身体が布越しに伝わる。微笑む俺に坊は不可思議そうな顔をした。




「それはあれやろ、友情やろ」
「えー、ちゃいますよお。坊のは特別!」
「お前が言ってもどうも本気とは思えへん」
「いややな、俺はいっつも本気・・・」




 そういってぐい、顔を近づける。このままキスでもできるかと思ったが坊の「やめろや」の一言に俺は動きを止めた。あとすこし、唇を尖らせれば届きそうな距離の坊と目が合う。まつげとまつげが触れてくすぐったい。睨む訳ででなく、微笑む訳でもない凛とした顔。俺は無性にその坊の凛とした顔がいやらしく思えた。同時に、身体が熱くなるのを感じた。




「・・・・坊、ここで止めるとか生殺しにも程がありますよ」
「お前は発情期の猫か!」
「ええ、そうかもしれへんなあ」





 そうならいいのに。そう思いながら俺は坊に絡めた腕をゆっくりと戻した。そうだったら臆することなく坊とキスなりなんなりできたのだろうか。この人に嫌われる事が執拗に怖い自分がいる。”側にいられるだけでいい”なんて、カッコ悪いにも程があるけれど。
 窓から漏れた茜色の光が、教室中を包み込んだ。 「帰るぞ」その一言に俺は静かに頷く。そして、心のそこから思うのだ。「ああ、この人が好きだな」と。










20111025





書いてたら志摩受けもいいかもしれないと思うようになりました。
ていうか京弁がわかりません。











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