あの時、こいつと唇を重ねてしまったことを今でも後悔している。あの行為が無かったらきっとこいつに未だ振り回されることもなくたまに学校帰りに会って「久しぶり」と肩を抱き合ってクレープを食べて別れるような、そんな一般的な男子高校生だったのだと思う。





「風間くん、かーえーろー」

「…なんでお前は毎度毎度わざわざ遠回りしてまでうちの学校に迎えにきてるんだよ」

「ほら、よく言うじゃん。通い妻ー、みたいな?」

「お前が女の子だったらどれほど良かったか」





 はあ、大きなため息をつく僕にお前は相変わらずのにやり顔で笑う。クラスメイトの「なんだ、あいつ」何ていう軽蔑の声が聞こえた。そりゃあ、ここでそんな公立高校の詰め襟学生服なんか着てたら、なるよな。僕は幸い頭が良かったからまあまあ余裕でこの私立校に入学できたけど。最初は嫌だったこの視線も、最近はもう馴れた。馴れって怖いな、我ながら感心する。







「風間くん」

「ん」

「今日家来なよ。母ちゃんたち旅行いってるから、なんなら一泊しても良いよ」

「…ひまわりちゃんは?」

「友達の家に泊まって来るって、シロも連れてった」

「……なんかする気だろう」







 そういうとしんのすけはニヤリと笑って「そりゃあ、まあ」と言うと僕の手の甲に軽く口づけた。「どうしますお姫様?」囁くしんのすけの声は、ミルクココアみたいに甘ったるい。ここで、しんのすけに寄り掛かってしまう僕も自分に心底甘いなあと思いながらも瞼を落とす。男物のシャンプーの匂いが、僕の頭を真っ白にさせた。












20100605





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