「また喧嘩したの?」





 情けなく眉じりを垂らして彼は笑う。女の子が顔に怪我しちゃ駄目じゃない、とママみたいなことをいう彼にわたしは「可愛い子は怪我しても可愛いのよ」と笑った。何年もまえから変わらない素振り。ただ変わったのはわたしを見下げる視線と、少しだけ低くなった声だけ。マサオくんはいつまでたってもばかみたいに困ったように笑っていた。





「ねえ、なんで喧嘩したの?」

「だって、マサオくんの悪口言ってたじゃない。しかも、目の前で」

「だからって、3年生…しかも男子に殴り込みにいかなくてもさあ」




 マサオくんはまた笑った。今回も不安と笑いが混じったような笑顔だ。ばか、ばかばか。あんたがそうやって笑ってばかりいるからわたしがやってるんじゃない。わたしが好きで顔に傷作ってるとでも思ってるのかしら。そう思いながらわたしはマサオくんの自転車の後ろに乗り込んだ。





「マサオくんのばかおにぎり」

「はいはい、僕はどうせおにぎりですよ」

「………ばーか」





 ほんとにばか。なんで馬鹿って言われてるのかわかってないんだから。わたしは思い切りおにぎり頭を殴った。途端ぐらんと自転車が蛇行した。





「マサオくん、危ない」

「ネネちゃんが叩くからでしょ、もう」





 やっぱり呆れた口調でマサオくんはペダルを踏み込んだ。坂道の砂利にタイヤがもつれる。がたんごとん、音をたてて。ふいに、風がごおおっと吹いた。春一番だ。マサオくんが笑う。いつからそんな表情で笑うようになったんだろう。その横顔がやけに大人っぽくて、わたしはごくりと息を呑んだ。












20100607
いじめられっこマサオとオカンなネネちゃん




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