すきなんだ。そう言われて荻はコーヒー片手にめんどくさそうに「はぁ?」と白い息を吐き出した。それが告白して最初の台詞だと思うと色気もへったくれもない。あまりに答えがわかる嫌そうな顔に、俺は思わず(こいつらしい)と吹き出す。誰もいない暗い公園に、ぽつんぽつんと外灯が小さく灯っている。誰もいない公園は外の寒さをよりいっそう高めた。





「あはは、あからさまだな」
「お前、頭おかしいんじゃないか。まあ、前からだろうが」
「好きなんだ、荻」
「俺は嫌いだ」
「もう12年、長いよな」
「気味が悪い、寄るな」
「なあ、キスしようぜ」





 嫌悪感たっぷりの荻に、無理矢理キスをする。荻の目が意味が理解らないといったように見開かれた。こんなごっつい奴、可愛いと思うなんて俺の脳味噌も大概馬鹿げている。でも、好きなんだから仕方ない。幾度か角度を変えて、深く深く唇を重ねる。ガクン、荻の膝が折れた。俺はそのまま雪崩れこむように荻の上に乗る。冷たい雪と芝生が俺の掌から体温を奪っていく。首筋にキスをすると荻は冷たさのせいか、びくんと身体を跳ねさせた。





「おが、た!」
「なんだよ荻。感じちゃったか?」
「なわけ、退け!」





 ブン、荻の拳が俺の顔を殴りつけた。その勢いで俺は後ろに吹っ飛んで、思い切り壁に身体を打ちつけた。ズキズキ痛む頬に手をやると殴られたそこがあつく熱を持っていた。さすが鉄人。口の中を切ったのか口の中が鉄の味で一杯だった。俺は痛さと寒さで麻痺した口を引き上げてへらへら笑いながら足元に血の混じった唾を吐き捨てる。荻は口付けた首筋をむしる様に擦りながら思い切り俺を睨みつけた。






「おい、顔は殴るなよ。せっかくのイケメンに」
「自業自得だ!何なんだお前!」
「いったろ、すきだって」
「好きな奴にこんなことするか!」
「好きじゃない奴にこんな事するかよ!」








 俺の声が乾燥した空に大きく響いた。その声にさすがの荻も本気と思ったのか。俺はそのままゆっくりとベンチに座り深く腰掛けた。荻もベンチに軽く腰掛けた。ベンチが軽くギィ、音を立てた。ぐぅう、背伸びをしながら空を見上げると星が綺麗にきらきら輝いていた。(綺麗だ)そう思った瞬間、横から荻の声がした。俺は気まずさに、上を向いたまま「何だ」と言う。今下を向いたらきっと泣いてしまう。そう思った。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。






「緒方」

「・・・・なんだよ」

「星」

「・・・え?」

「星、綺麗だな」






 綺麗だな。綺麗だな。きれいだな。その言葉を境に俺の涙腺はブッ壊れてしまったらしい。上を向いてもポロポロ、こぼれてくる。本当、ムカツク奴だ。そうやって俺をどれだけ好きにさせれば気が済むんだよ、馬鹿。そこは散々に罵って帰るところだろ、ばあか。お前、どんだけいい奴なんだよ。犯すぞ、バカヤロー!そう叫ぶ俺に荻は「お前なんかにやられっ放しでいるか、バカ」と笑った。その笑顔の眩しさに、俺はなんだかくらくらとした。


















20110112
BGMが某斎藤さんだった





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