ピンクリップ/オスリモ/ラブコメ?

小さな指先を、金色の綿毛をくるくると巻きつけて、頬を膨らませている少女。
アンジェリークは故郷から持ってきたティーン誌にうつるモデルから、目が離せない。

「いいなぁー、いいなぁーストレートヘア‥」

そう、最近のモデルさんはストレートが多い。髪の色だってかえたりしてるし、服だってとってもオシャレ。
同じ店に買い物にいってみたが、自分が着るとどうにも「お嬢さん」ぽくなってしまう。

「うーん、童顔ってなんとかならないかしら‥」

メイク道具なんてもってない。
そもそも、この聖地で見たことがない。
オリヴィエ様はまぁ色々取り寄せていると伺ったことがえるが、少なくともお店をめぐっても無添加石鹸くらいしか‥。

「お嬢ちゃん、難しい顔をしてるな?そんなに憂いた顔をしてこの部屋にいるのは、俺を待つ時間が寂しかったのか?」

「あ、オスカー様‥お疲れ様です」

普通に雑誌から目を離さずにアンジェリークが答えると、オスカーは苦笑してアンジェリークの元へ、歩みを進めた。

執務室の、隣にあるオスカーの私室。
ダークブラウンを基調にされた室内には、大きな円形ソファの真ん中で、ふかふかのクッションに沈みながら本を読みふけるアンジェリーク。
そのソファの後ろから、アンジェリークを覗き込むようにオスカーはアンジェリークの隣に座った。

「‥この冬にかかせないのは、ストレートヘアとビビッドオレンジの花柄タイツ?」

「あっオスカー様、わたしが読んでるのにー!」

なんだこれは。
オスカーが写真にうつるモデルを見て笑い始める。

「お嬢ちゃん、もしかしてこんな風になりたいと憧れてるのか?」

「そ、それは‥べ、別にいいじゃないですか!だって!この髪、毎朝ひどいんですよ!」

アンジェリークがガバッと頭を抱えてむぅっと口を膨らませる。
その様子が可愛くて、さらにオスカーはからかいたくなるのだが、慌てて頭を冷静にする。
可愛いけど、女王候補、可愛いけど、女王候補エンドレス。
ここ最近のオスカーの心の呪文である。

「こんな風にストレートでさらさらの髪だったら、毎朝すっきり目覚められるし、服だって大人っぽいのも似合うだろうし‥!」

「‥お嬢ちゃんは大人っぽくなりたいのか?」

「はい!そりゃあ、もちろん。メイクだって覚えたいですし‥」

「ほぉ‥メイク」

「な、なんですか」

アンジェリークは雑誌をオスカーから見えないように背中に回し、じっとオスカーを見上げる。

「‥そんなに、慌てて大人になんてならなくても、お嬢ちゃんはレディだろう?」

艶っぽい瞳でオスカーが微笑み、アンジェリークは予想外の反応に思わず赤面するのにボワっと音が聞こえた気がした。

それは、あの夜のことをいっているのだろうか、それとも、日曜日の、あれのこと?

「‥そうだ。この間出張があってな、お嬢ちゃんにあげたいものがあるんだ」

口元に指を当て、イタズラを仕掛けるようにオスカーが棚から小さなギフトパッケージをもってきた。パッケージは高級そうな感じではなく、雑貨屋のような薄いピンクのPPパッケージに、グリーンのリボンが巻かれていて、中身に目を奪われる。

「‥かわいい!」

アンジェリークは思わず声を出して連呼した。
あけてもいい?と見上げると、うなづいたのをみると中身をあける。

中身は、淡いピンク色が可愛い、リップ。
ケースがとてもオシャレで。キラキラと宝石みたいに輝いて見える。

「うわぁー!オスカー様、ありがとう!!」

ガバッとアンジェリークはオスカーに抱きつき、腕を回して頬を摺り寄せる。
頬におまけにチュッと音を立ててキスすると、さっと立ち上がった。

「お、お嬢ちゃん」


こ、このつづきは?
とオスカーの手が揺れたが、アンジェリークは振り返ることなくドアまでいき、「みんなにみせてくる!」と出て行ってしまう。

「オスカーさま、アンジェリークだいすき!」

扉が閉まった後にアンジェリークの声が聞こえたのでなんとかソファで完全に沈むところだったオスカーは、大きなため息で見送れた。

「うふふ‥まずは、やっぱりロザリアにみせて、メイクならオリヴィエさまにも‥」

わくわくしながら廊下を駆け抜けるアンジェリークの持つリップの側面には、

対象年齢6歳以上との文字があり、
赤っ恥をかいたと、オスカーに詰め寄るお話は、また今度。




オスカーは、出張先で可愛い女の子にあげるリップと言ったので、女の子用リップだったわけですね。ジルスチュ◯ートのリップみたいな外観のつもりです。
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