二十二話


 お気に入りのチェックのスカート。最近買ったデニムのパンツ。この間リカちゃんに褒められた、白いワンピース。手触りの良い白のシャギーニット、赤いベロア生地のタイトスカート。クローゼットと箪笥の中から、目につく限りの「可愛い服」を引っ張り出した。全身鏡の前で身体に当ててみては首をかしげる。

「何、着て行こう・・・・・・。」

 テストが終わった直後の土曜日、時刻は二十一時。部屋は私のお出かけ用の洋服が散乱していた。



「で、でーと?」
「ん。実はな、好きやった小説が映画化してん。前話したことあったやつ、覚えとる?」
「覚えてるよ、前に進めてくれたやつだよね、初恋同士のお話の」
「そう、それ。公開が明日からでなぁ、近いうちに見に行きたい思っててん。結構コテコテの恋愛ものやから、男一人で行くんも気まずいなぁて思っとって・・・どうやろ?」

 その映画は、春に忍足くんと話した時に話題に出た小説が原作だった。忍足くんに勧めてもらって、共通の話題が欲しくてすぐに私も読んだものだ。初恋同士の二人が、色々な苦難を乗り越えながら思いが通じ合う、ベタベタの恋愛小説。そういえば、今人気の俳優さんが出るってテレビで宣伝してたっけ。
 って、そんなことが重要なんじゃない。でーと。デートって、言った。デートってことは二人っきりでお出かけするってことだよね。忍足くんと。映画デート。途端に心臓が早鐘を打ち、顔に熱が集中する。目をぱちぱちさせて、恥ずかしくて思わず視線を逸らしてしまった。どうしよう。いや絶対行く、行くんだけど急すぎて、それにさっきまでの話から全然予想外すぎて、心の準備が全くできてなかった。えっと、えっと。

「・・・ちゃんと、みょうじに一緒に来てほしいねん」
「えっ」
「誰かの代わり、とかやなくて」

 代わり、という言葉を聞いてハッとした。四月にちょうどこの図書室で、忍足くんにユリカちゃんの代わりに誘われた時のこと。忍足くんを見上げると、相変わらずのポーカーフェイス。だけど、少し瞳が揺れて、ゆっくりとまばたきをした。不安に、させちゃってるのかな。もしかしたら勇気をだして、私のこと誘ってくれてるんだ。私もちゃんと、応えないと。

「私も、忍足くんと映画行きたい。ぜひ、その・・・連れてって、ください」

 最後まで目を合わせて言おうと思ったのに、みるみる自分の顔が赤くなるのを感じて、結局最後は目をそらしてしまった。そんな私を見た忍足くんは、「おおきにな」と優しく言ってくれた。なんとなく、安心したような声だった、気がする。




 明日、日曜日。午前十一時に駅前で待ち合わせ。お互いの最寄り駅の沿線上にある街の映画館に行くことになっている。絶対遅刻なんてしたくないし早めに寝たいけれど、さっきから明日着ていく服が決まらないのだ。洋服は好きだけど、男の子とデートの時に着ることを想定したことなんてなかったし、新しく買いに行く暇もなかったから、とても困ってしまっていた。買いに行っても、きっと迷ってたんだろうけど・・・。忍足くんが好きな女の子のタイプも知らないし、どんな服装が好きなのかもわからない。もし外れを引いてしまったらと思うと、・・・。
 忍足くん、どんな格好で来るんだろう。身長が高くて足も長いから、きっとなんでも似合うんだろうな。おしゃれでかっこいい忍足くんを想像して、思わず口元がにやけてしまった。でも、そんな人の隣を明日歩くんだよね。なおさらハズした服は着ていけないし。

「・・・可愛い、って思われたいなあ」

 忍足くんの元彼女さんたちは、控えめに言っても可愛くて美人な、整った子ばかりだった。それ以外にも氷帝には可愛い女の子がいっぱい居る。・・・私は、正直顔は全然、むしろ平均以下だ。スタイルだって、正直よくないし。どう考えても平均以上の忍足くんに釣り合うには、いったいどうしたら・・・。うなだれながらスマホを操作して、リカちゃんに電話をかけた。

「もしもーし?」
「リカちゃーん・・・服決まんない」
「えっまだ決まんないの? 服なんてどれでもいいって、なまえいっつも可愛い服着てるじゃん」
「どれなら忍足くんに可愛いって思ってもらえるかわかんないんだもん。わたしじゃ忍足くんと全然釣り合い取れないし・・・どうしよう」
「もー、大丈夫だってば! なまえの一番可愛い服着て可愛くしてったら絶対可愛いって。忍足だって、自分のためにおしゃれしてきた子のこと可愛いと思わないほどバカじゃないから!」
「・・・本当に?」
「本当!」
「・・・ねえ、赤いスカートと白のワンピ、どっちがいいかな」
「白いワンピ!」

 リカちゃんは、初デート目前にしてぐずってるわたしの話をちゃんと聞いて励ましてくれた。そう、初デート。二人で勉強したり、学校外でも偶然二人になった時はあったけれど、まるっきり二人でお出かけは初めてだ。すごく楽しみだけど、忍足くんに良い印象を持ってもらえるかどうか。うじうじしてる自分が自分で情けない。
 電話を切ったあと、わたしはリカちゃんに決めてもらった白いワンピースをハンガーにかけて、目に見える場所に吊るした。ワンピースに合わせたカバンに荷物を詰めて、ベッドに潜り込む。忍足くんからのLINEのトーク履歴を眺めた。デートの連絡事項、たわいもない話。こうやってLINEでもちょこちょこと連絡ができるようになったのが嬉しくて、こうしてたまに見返してしまう。幸せな気持ちに浸って居ると、新着メッセージが届いて、思わず声が出た。

[明日、楽しみにしとる。おやすみ]

 短めの、簡単なメッセージ。たったこれだけでも嬉しくて、口元が緩んだ。楽しみに、してくれてる。

[わたしも、すっごい楽しみ!おやすみなさい。また連絡するね]

 ドキドキしながらメッセージを送って、スマホを置いた。楽しい一日に、なりますように。





[ PREV | NEXT ]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -