(病み部。流血表現あり)

守りたいという感情の裏には、相手に汚されたくないという感情があるのだろう。そしてそれは裏を返してしまえば、俺が真っ白な状態で汚したいのだ。真っ白以外、汚し甲斐がないから。少し日焼けした肌も平均より少し低くて丸い鼻も、クレープにかぶりつけない小さな口も。俺以外に汚されて良いわけなどない。決して美人と呼べない彼女であるが、俺にとっては誰よりも何よりも魅力的だった。だから、俺が、俺の色に汚してやるつもりだった。


「…どうした。その傷は」
「転けた」
「馬鹿言え。どうやって転けたら頬が腫れ上がる。もう少しマシな嘘を付け」
「…私、どじだから」
「言え。」
「でも、」
「言え」
「…忍足のファンクラブの子に、ちょっと」
「そうか。ったく。先帰ってろ」


真っ白な半紙に垂れた真っ黒な墨汁。決して拭うことの出来ない染みに俺は怒りを隠すことなんて出来なかったし、隠す気もない。忍足のファンクラブと聞いて一番テロリズムな考えを持っている奴らなど、普段の練習から容易に絞ることが出来た。控えめに手を振る名前を見送ってからそいつの教室に向かえば、恭しい笑みを浮かべて俺を話の輪の中に招いた。馬鹿馬鹿しい。思い切り振り上げた足を鼻の付近に入れてやると、女は軽々と後ろに飛んでいった。鼻からはだらしなく真っ赤な血を流している。ざまぁみろ。


「跡部、さ」
「名前に手を出したのは貴様か」
「あの、」
「早く答えろ。俺は気が長くない」


堅く握った拳を女の鳩尾に入れればゲホゲホとせき込んだ。こんな女を汚したところで何の価値もない。面白味の欠片すら見いだせないこんな女、死んでしまえばいいのに。
にたりと笑って見せれば女は目に涙をいっぱい溜めてごめんなさいごめんなさいと繰り返した。やはりこいつか。髪の毛を乱暴に掴んで抜けるのではないかという勢いで引っ張ってからそのまま後ろの壁に強く打ち付けてやった。うぅ、と情けない声で唸る女は死を感じたのだろうか。カタカタと小刻みに体を震わせた。


「跡部、何やってんねん」
「アン?忍足か」
「いくら何でもやりすぎやろ!」
「うっせえな」


もう一度振り上げた足は忍足の鳩尾に綺麗に入った。バランスを崩して後ろに倒れ込む忍足は心底驚いたような表情を浮かべている。


「ファンクラブの管理くらいしろ」


次は殺すぞ。
笑いながらそう言えば忍足は珍しくポーカーフェイスを崩してこくりとうなずいた。


彼女を汚して良いのは俺だけだ。どんな形であれ、俺だけ。こんな俺を彼女はなんというだろうか。もしも彼女が俺を蔑んだような目で見るならば、俺は。


(おはよう景吾)
(おはよう名前。愛してる)


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ぶっ飛んだ跡部可愛い