「跡部…これの受理をお願いします。」

「あ?」

昼休み。生徒会室のソファーに座った跡部に名前は一枚の紙を差し出した。

「退部届…いいぜ」

「ありがとう…」

案外簡単に部長印の欄に「跡部」という判が押された。

「これでお前は男子テニス部の部員じゃない。よかったな」

「いままでお世話になりました。」

名前はずっと悩んでいたのだ。跡部に媚を売ってるだとか忍足と同棲しているだとか根も葉もない噂を流され同輩、先輩の女子生徒によるいじめで。

これで楽になれる…そう思ったのもつかの間だった。

「マネージャー首になったんだってね。おめでとう」

厭味ったらしく言われる。大丈夫、もうなれてるんだから。

「わざわざお祝いどーも」

目には目を、歯には歯を。ハンムラビ王はよくいったもんだ。嫌味には嫌味を。

教室へ戻ろうと廊下を歩くと正面から女子の集団がぞろぞろとやってくる。

「なに?」

「なにもへったくれもないでしょ?いい加減自分の立場分かってきたんじゃない?」

イジメの主犯ともいえるどっかの大企業のお嬢様の一言を皮切りに後ろの輩もワラワラ何か言う。

「んで?結局はなにがいいたいの?私はもう男テニの部員じゃないしあんたらの思うようになったんだから跡部にキャーキャー言うなりすればいいじゃない。雌豚」

「んなっ…あんた誰に向かって言ってんの!?」

「逆に聞くけどあんた以外誰に言ってんの?」

「貴様っ!!!」

高く手が上がる。殴るなりなんなりすりゃいいよ。

パシンッ

「っ…」

乾いた音とともに自分の頬に痛みが走る。

「みーちゃった♪」

「あっ…うっかりシャッター押してもうた」

聞き覚えのある声。

「侑士…岳人…」

「向日…くん…。」

形勢逆転。

彼女は目を開き呆然としている。

「おいおい…岳人にしか反応せぇへんのか」

「跡部に言っちゃおうかなー」

「この写メ、跡部に送ってもええんやで?」

忍足も向日もにやにやしながら彼女をみている。完全に悪役顔してますよー、二人とも。

「ちっ…送ればいじゃない。どうせ跡部様はこっちなんかみてくださらないんだから…」

「じゃあそうさせてもらうわ」

忍足がケータイをいじりだすとともに彼女達は悔しそうな顔をしながらその場を去った。

「侑士、岳人…ありがとう…」

「礼なら跡部に言えよ。あいつがこの作戦…」

「岳人。」

「やべっ…」

向日があわてて口をふさぐ。

「ふふっ…わかった。」

そういって名前はまた生徒会室に戻る。

「跡部。」

「あ?」

「ありがとう」

「なんのことだ」

「なんでもない。それじゃ」

「ちょっと待て」

「なに?今日のドリンクの濃さの要望?あたしはもうマネージャーじゃないよ」

「何言ってんだ。よくみてろよ」

そういって跡部は引出から一枚の紙とライターを取り出す。

「それ…」

カチッという音とともに焦げ臭い匂いがする。そしてやがてそれはただ一つの黒い灰と化した。

「放課後にここにかいてあるもん買って来い」

一枚のメモ用紙を渡す。

「…しゃーないなー。了解」

そういって名前は生徒会室を後にした。

――
20120713 知