よく身体がズブズブと水に沈んでいくような感覚に陥ることがある。底無しの海が俺の背中に特有の浮遊感を与えて止まることを許さない。何かを予感しているのだろうか。溢れかえるような不安や恐怖にもちろん捌け口なんてものはなく俺の中でぐるぐる巡った。
そして気が付けば俺はいつも通りの淡白な天井と対面する。目を覚ます。
不安と恐怖が汗になって流れ出す。かちかちと響く秒針の音が俺の生を確立させる。俺はまだ生きているんだと確信すると消えたはずの恐怖がまだぶわり浮上した。
こわいこわいこわいこわいこわい。すべてがこわい。テニスがなくなって見えなくなってしまった暗闇を俺は一人手探りで生きている。穴があるかもしれないそこは一足先は奈落の穴かもしれなくて。俺という人間はあっさりそれだけで終わってしまう。そんな毎日が繰り返されているのかと考えるだけで五臓六腑全てを吐き出してしまいそうなくらい気持ち悪い。こわい。




「っ、はぁ、…」




下手くそな深呼吸をしてゆっくりと酸欠になった体に酸素を取り入れた。俺の目にはいつもと変わらない自分のゴツゴツと骨太の手のひらと真っ白な布団。そしてそこにはポタポタと真っ赤な液体が流れた。血が滲んだ涙。昨日も泣いた。今も泣いた。その前もその前の前も俺は泣いた。泣き続けた目は、充血を通り越した目からは血が滲んだ真っ赤な涙が流れるらしい。気持ち悪いくらいに真っ赤に充血した俺の目からはついにそれが流れた。悲しくない。ただこわい。無償に
外には青空や太陽ひとつ出ていない鈍色の空が広がっている。もう何も見えなくなりそうだ。何も見るなと言われているようだ。




「幸村」

「部長!体調はどーすか!?」

「、ねぇ」




ごめん俺にはなにも




「何も見えないんだけど」




滲んだ視界には何も見えなかった。何も映そうとしなかったのか映らなかったのか。そんなことを考えたらきっと壊れてしまうだろう。

20120214 榛