空が赤い。それは夕焼けとかそんな甘っちょろいものじゃなくて世界の滅亡を告げているらしい。今日のお昼の2時36分に小さな小惑星規模の隕石が地球と衝突するらしい。文字通り地球はおしまい。大人たちが大切にしていた会社での関係なんかもこの期に及んでは何の役にも立たないし私達が築き上げてきた友情も積み上げてきた勉強もお金だって。初めてそのことがニュースで知らされた時は誰も信じなかった。地球が終わるだなんて馬鹿げてる。またノストラダムスの大予言みたいに不発で終わる。誰もが口をそろえてそう言ったが日に日に近づくあの月とは別の黒い陰。みんな言葉を失った。
そして今日は最後の日であと一時間で地球は塵となる。でもあたりは驚くほど静か。車一つ走っていないしお店はシャッターが降りている。どこからも泣き喚く声なんて聞こえない。どうやら人間は死を受け入れるとその死と真っ正面から向き合うために何も発さないらしい。私もこの見晴らしのいい高台の公園に来て見て良くわかった。私の心は気持ちが悪いくらいに落ち着いている。無風。無音。その二つが今の私の心境に一番近い。
はぁ。と何の意味も持たない溜め息を吐いてから近くにあったベンチに腰掛けた。誰かと一緒にいたいけれどそれを考える気力すらない。しかしその落とした肩にすっと暖かいものが触れた。




「よぉ。死ぬ直前一時間前の調子はどうだ」

「景、吾…」

「俺は真っ白だ」

「私もだよ」

「だがお前と一緒にいたかった」




私の隣に腰を下ろした景吾の右手が私の左手を包み込んだ。そうだ。私も景吾と一緒に過ごしたかったんだ。真っ白な頭に景吾が浮かんだり沈んだりした。私はゆっくりと景吾の肩に頭を乗せた。




「汚いな」

「え?」

「この世界は」

「そうだね」

「地球が滅びるとわかってから人は職を捨て犯罪に手を染め他人を殺し自分を殺し。物を盗んで女を犯す。人間なんて所詮そんなもんだ」

「うん」

「神はこの汚れた世界をリセットしたかったのかもな」

「きっと、ね」

「いくら綺麗にしたっていつだってそれを壊す反乱分子は次から次へと現れる。それは今回人間だった。」

「うん。」

「ただ名前と再び未来で一緒になる夢を奪った神が憎い。」

「景吾」

「なんだ」

「愛してる」

「俺も愛してる」




急に大きくなった星の陰が唸るような音を立てて地球に接近した。あぁ。これで全てが終わってしまうんだ。目を閉じる前に最後に見た景吾の笑顔は星の崩壊なんてどうでもよくなるくらい綺麗だった。