跡部様のことが好きじゃないの?なんてことよく友達に聞かれる。理由は明確で恐らく私が試合の観戦なんかをしないからであろう。でも私も跡部のことは好きだ。綺麗だしみんなを引っ張っていく感じには好感が持てるしいい声だしね。こちらとしても惚れポイントは貫かれてるんだけど恋愛とはちょっと違ったりもする。
なんて言うか…まるで手の届かないアイドルというか彼の目には私たちなんて主として入ってこないのではないのだろうか。彼がどんな女性に目を止めるとかそんなことは良くわからないけど私にとってスクリーンの向こう側の存在であるなら彼にとっても私たちはスクリーンの向こう側の人間。目の中に入れる対象ではないと言うわけだ。
だから私としてはたまに。ほんとうにたまに彼が視界に入ればそれで充分なわけだ。だってアイドルは1日にっていうかしょっちゅう目に入れるものじゃないでしょ。っていうのが私の言い分。多分跡部という別次元の存在に恋をしてしまった私が惨めなのが浮き彫りになりたくないから私は彼を進んで見ようとはしないんだろう。
コートの周りでキャアキャアやりたいけど正直雌猫になりたくないっていうのもちょっとある。
殆どの女子生徒が外のコートで応援中の今、私は校舎の中で一人ぽけっと外を眺めている、まぁただの保健委員の当番なんだけど。部活で怪我したって可愛いマネージャーとかがその場で治療しちゃうから正直言って放課後、保健室を訪れる人なんて一人もいない。当番は5時までなのだが今時計は4時ちょっと前をさしていた。暇すぎる。あと一時間何をして過ごせばいいんだ。
ふわぁと手を軽く当てながら欠伸をするがこういう時ばかり来訪者とはやってくるものであたかも欠伸なんかしてませんからとでも言いたげに欠伸を飲み込んでから顔をあげた。しかしその意外な顔に再び少しだけ口が開いた。




「暇みてぇだな」

「ひ、まです…」




なんで彼がここにいるの。目の前には膝から血をだらだら流す跡部の姿が。今まで通常運転していた運転がどくんどくんとスピードと鼓動を上げた。だって汗かいてるし。無駄に垂れ流されているフェロモンはもう排水を海に垂れ流してる工場より犯罪的だ。誰か私を止めて欲しい。




「すまねぇ。治療してくんねえか」

「え、あ、はい!どうしたんですか…?」

「女が1人コートに突っ込んできてな。そいつに後ろから倒された」

「あはは…。おモテになるようで」

「迷惑なだけだ」




でしょうよ。
つかコートに突っ込むなんて勇気あるなぁと不謹慎なことを考えながら跡部の血を拭った。血は止まる気配はないようで彼の靴下を赤く染めていた。




「靴下まで真っ赤です…」

「靴下なんかいくらでも買えんだろ」

「そういう問題ですか…?」

「お前変わってるな」

「いや…」




あなたに言われたくないです。小さくそう告げたところ何故か鼻で笑われた。完全自分の気持ちをノンフィクションで告げたつもりだったのだが…。




「お前面白いな」

「光栄です」

「同い年だ。敬語はなしだ」

「むちゃな」

「無茶じゃねぇ」




無茶です。と再び切り返してから跡部の膝にガーゼを当ててから包帯を巻きつけ。我ながら上手くなったもんだ。終わりですー。と跡部の膝を叩いてやれば跡部は軽く目を細めた。やっぱりいきなり傷口たたくのは痛かったらしい。ごめんなさいとふざけたように言えば跡部は私の腕を掴んだ。




「また来ていいか」

「なんでですか」

「お前が気に入った」

「まだ5分くらいですよ」

「運命を感じるのに時間はいらねぇ」

「そうですね」

「だろ」

「あなたって」

「アーン?」




アイドルじゃない。真顔でそう言えば跡部はかなりツボったらしくけたけたと笑い始めた。私と跡部の間ににあったと思ってたスクリーンは最初から無かったらしい。私も跡部と一緒に笑った。