彼は本当に吸血鬼なのだろうか。
彼と一週間生活を共にしているのだが彼が吸血行為をしているところを見たことがないし私と彼との接点は日が沈んで私が寝るまでの数時間。それに彼は何か物思いに耽るように夜の空を眺めているだけだ。
一度だけ触れた氷のような手はあれ以来私を捕らえなかった。
彼は本当に何がしたいのだろうか。豪華な椅子に座り込んでいる彼に数歩近付けば彼のビー玉のような虚ろの青い眼に私が映った。
「私の血は吸わないの?」
「吸って欲しいのか」
「いやだ」
「だろ?俺は無理強いは嫌いなんだ」
早く寝ろと彼の冷たい手が私の頬を撫でた。人間離れした冷たさになんだか改めて恐怖を感じた。彼は人間ではない。
「おやすみ」
「あぁ」
「あなたは寝ないの?」
「俺様の活動時間は今だ」
「…合わせた方がいいの?」
「お前はお前の生活をしろ。」
何故彼はここまで優しいのだろうか。
* * *
「色気出して何やってんの?」
「…忍足か」
「ご名答や」
すぅっと暗闇から藍色の髪の毛をした人間…俺の仲間と言った方がいいのかもしれない。そいつは俺の手からワインの入ったグラスを奪い去り一口自分の口に含んだ。すると不味いといわんばかりに眉をひそめた。
「ワインやん」
「当たり前だ」
「血ぃは飲まんの?餌おるやん」
くっと伸びてきた手を払い、餌。という言葉を否定した。
「いつまでも飲まずにおられるなんて思うなよ」
「わかってる」
「死ぬで」
「…それで死ねるなら本望だ」
固まりかけた口角を少しだけ上げれば忍足はこちらをあざ笑うように笑い返して消えた。名前は餌じゃない。
ゆっくりと目を閉じてワインを流し込んだ。渇き切った体にそれは染み渡ることはなくそのまま下に落ちた。