あほ 1 | ナノ



彼は誰であったのだろうか。
そんな疑問が頭をぐるぐる旋回するがそんな悩みも彼が本当に私に再び会いに来るというならば済む話だ。私は家族の待つリビングに向かえば両親は仮面が貼り付いたような笑みを浮かべて私を恭しくリビングに招き入れた。双眼が少しだけ。ほんの少しだけ滲んでいた。しかし私はそれを尋ねることが出来なかった。
触れてしまえばすべて壊れる。まるで雪の結晶だ。




「誕生日おめでとう」

「ありがとう。」

「名前は…いくつになるの?」




わかりきった質問。苦笑いを浮かべながら18です。と答えればお母さんがその場に泣き崩れた。何故泣いているのだろう。
お母さんの目から流れるものは私の18を祝う歓喜ではなく紛れもない哀れみだった。私は居たたまれなくなって覚束ない足を返して自室に戻った。
部屋は明かり一つなくてそれこそ何か出そうな雰囲気だ。それはいつものことで私が明かりを付ければいいのだが今日は開けた覚えのないドアが開け放たれ外の冷たい夜風が室内へと流れ込んできた。それと




「誰ですか」




人らしきものの気配。らしき。というのはおそらく聞いておきながらこの気配が先程の彼のものだとどこかで悟っていたから。ゆっくりとドアノブに手を当てて逃げる準備をしたつもりだったが
風が通り抜けた。そう感じたときには時すでに遅く彼は私を捉え壁に追い込んでいた。
始めてみた彼は同い年くらいで恐ろしいくらい整った顔をしていた。




「久しぶりだな」

「…さっきぶりです」

「契約だ。行くぞ」




にたりと口を歪ませた彼の口には八重歯が光った。彼があの不気味な城にすむ吸血鬼であることは容易に出来た。




「ありがとう」




感謝をするようなことはされてないのに。私はそれだけ告げると眠るように床に崩れた。