当たり前。



「鬼灯様。もう、別れましょう。」

なんとかもぎ取った休日。アレをしてコレをしてと緻密に組み立てられた私の計画はガラガラと音を立てて見事に崩れ去った。下を向いたままこちらを見ない彼女は言葉を続けた。

「仕事がお忙しいのはわかっています。でも、お話ししている時だって、私の目を見てくれません。デートの途中だって、すぐ帰ってくるからと言ってお仕事に行ってしまわれます。」

そういえばそんなことがあった。しかしそんなことで怒るような人だっただろうか。行って欲しくなかったのなら言えばよかっただろうに。

「貴女は止めなかったじゃないですか」
「…最低…」

ずっとしたを向いていた彼女が顔を上げた。その顔は泣き顔かと思いきや、鬼のような形相を浮かべていた。

あ、鬼か。

「お仕事だと言われれば止められるわけないでしょう?なんでそんなこともわからないんですか!もういいです。さようなら。」

彼女は部屋の戸をバタンと閉めて何処かへ行ってしまった。

「なんなんですかね。」

なぜ彼女があんなに怒るのか、私には理解ができなかった。

まぁ、喧嘩なら以前にも何度かしたことはある。きっと明日には帰ってくるだろうと思っていた。

モヤモヤとした気分で休日を過ごし、モヤモヤとしたまま翌日を迎えた。

なまえさんは帰ってこなかった。

「大王。なまえさん見てませんか?」
「えっ?なまえちゃんならしばらく休みをくれって言ってたけど…鬼灯君、聞いてなかった?」
「そう…ですか」
「ていうか、昨日デートだったんでしょ?」
「喧嘩したんですよ。それで、出て行ってしまって帰ってきていないんです。」
「えぇ!?それってちょっとまずいんじゃない?」
「まぁ、喧嘩なんて今までにしてきましたし、そのうち帰ってくると思うんですがね」

一日の仕事が終わり、部屋に戻ると普段は「おかえり」と言ってくれる彼女がいなかった。今回の喧嘩は長引きそうだと思いながら寝台に身を投げる。枕には一本、明らかに自分のものではない髪の毛がついていた。

手にとってゴミ箱へ入れた時、妙に引っかかるものがあり、ケータイを手に取った。

呼び出し音のあとに続くであろう彼女の声はなく、代わりに留守電に切り替わる。

乱暴に切り、もう一件思い当たる先に電話をかけると、そこの主は思ったより早く電話に出た。

『もしもし?こちらうさぎ漢方極楽…ってお前かよ。』
「すみませんが、そちらになまえさん来てませんか?」
『…来てるよ。おせーよ、馬鹿。』
「わかりました。今すぐにお伺いします。」

白澤さんの返事も聞かず、電話を切り、急いで門まで向かう。牛頭さんと馬頭さんに改めて彼女がここを通ったことを聞き、さらに足は速まる。

門を出るとそこには桃太郎さんがいた。

「鬼灯さん、ちょっといいですか。」
「すみません、急いでいるので」
「なまえさんのことです」

桃太郎さんは真剣な目つきをしていた。

「俺なんかが言うのもおかしいですけど、なまえさんの話を聞く限り、今回は鬼灯さんが悪いと思います。」
「なぜです?」
「そりゃ…デート中に仕事に行かれたり、話してる時に目を見てくれないんじゃ誰だってさみしく思いますよ。鬼灯さんが仕事に行ってしまった間、なまえさんはどう思っていたと思います?ていうか、なまえさんの気持ち、考えたことあります?」
「…ないですね。」「そうっすよねー…。なまえさんが止めなかったのはきっと鬼灯さんの負担になりたくなかったんだと思いますよ。」
「そういうものですか。まったく…そうならそうといえば良いものを。本当に女性とは面倒なものですね。」
「そういう言い方はないでしょう!!」

桃太郎さんが目を見開き、声を荒らげる。普段、穏やかな性格な彼にしてはとても珍しいことだった。

「あんたねぇ、なまえさんのことほんとに大事に思ってるんですか!?はっきり言って今の鬼灯さんは最低ですよ!」
「えぇ、最低です。ですが、反省はしています。それに、こういう面倒は嫌いじゃないですよ。ましてや、なまえさんのことならばね」
「なら…」
「えぇ、謝って来ます。」

私にとって彼女はいなくてはならない人だ。彼女がいるのは当たり前のことだとばかり思っていた。自分からは離れて行かないとどこかでタカをくくって居たのだろう。

薬の匂いがする白い建物の前に立つ。普段なら、戸を破って入るが今日はそうしようとは思わなかった。

コンコンッ

ノックすると奥から「はーい」という飄々とした声が返って来た。
戸を開けると、その先のカウンター席で白澤さんが出したであろうお茶を飲んでいる彼女を見つけた。

「なまえさん、すみませんでした。お願います、帰ってきてください。」

彼女の前で深々と頭を下げる。

「鬼灯様…あの、顔を上げてください。私こそすみませんでした。感情に任せて物を言ってしまって…」
「いえ、あれは私が悪いのです。怒って当然です。私は貴女をもっと大切にするべきでした。」
「鬼灯様…」
「これからも私の隣に居てくれますか?」
「はい。もちろんです。」

たまらずなまえさんを抱きしめる。こうして抱きしめたのはいつ以来だろうか。

「はいそこまでー。人の家でイチャイチャするな。」
「あっ…」
「うるさい、偶蹄類。ですがなまえさんがお世話になりました。もう2度とここには来ないと思いますのでよろしくお願いします。」
「はいはい。精々、なまえちゃんに愛想つかされないようにな。なまえちゃん、こいつが嫌になったらいつでもおいで。」
「はい。白澤様、ありがとうございました。」

なまえさんの手を取って極楽満月を後にする。後ろで桃太郎さんが手を振る。その隣では白澤さんがなにか言っているがまぁいい。

「鬼灯様」
「なんですか」
「好きですよ」
「えぇ。私もです。」

これからは二人の時間を大切にしよう。

ーー
人の気持ちを理解しない(できない)鬼灯様を書きたかった。

20140607 知






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