愛情を注ぎましょ?



「なまえさん、こっちに来なさい。」
「っ!?はい…」

この反応が少し不思議て仕方が無い。
彼女に対し「来なさい」と言うと必ずビクッとしてから返事をする。

そして不安な顔をしてわたしの元へ来る。

「後ろの帯がゆるんでます。直してあげますから、後ろ向いてください。」
「あっ、すみません。」
「はい、直りましたよ。」
「ありがとうございます!」

パタパタとかけて行く姿が可愛らしい。本当は帯なんか緩んでいなかった。彼女の柔らかな髪からする香りを胸いっぱいに吸い込みたかっだけなのだ。仕事中に想い人をしょうもない理由で呼び止めたのは申し訳なかったが、やはりあの反応が気になるのだ。

今度、思い切って聞いてみよう。そう思いながら、再び紙の上に筆を滑らせた。

後日、彼女を食事に誘い、美味しい食事を楽しんだあと、自室へと連れ込む。私は寝台に腰をかけ、「相変わらずものが多いですね」といろんな棚をみながら言う彼女に例のセリフをいう。

「なまえさん、こっちに来なさい。」
「はい」

あれ、反応が違う。

そのまま隣に座る彼女の髪を梳き、くすぐったいですと少し頬を染める彼女に質問を投げかけた。

「貴方、私がそう言うといつも肩をビクッとさせてから返事するじゃないですか。あれ、なんですか?」
「あぁ…。両親が私を呼んで叱るときは必ずそう呼ぶんですよ。それでつい…。不快にさせていたらごめんなさい。」
「いえ、そういうわけではないのです。ただ気になっただけなので。でも、さっきの反応は平然としてましたね。」
「あっ、それは声色がそんな感じではなかったので…。それにこう言うときに叱られるってのもあまり無いじゃないですか。」
「確かにそうですね。今度から私も気をつけます。」
「いえ!鬼灯様が悪いわけではありませんし…。そのままで大丈夫ですよ。それに、"叱る"というのは私を思ってのことですし、今となれば感謝すべきことです。」

そう言って笑う彼女は少しさみしそうだった。

「そういうもんですか…」
「はい。そういうもんなんです。甘やかされて育っては、ロクな大人にならないでしょう?」

孤児、よそ者と後ろ指を指された少年時代を過ごした私には理解し難いことではあるが、それは一種の愛情なのだろう。

その愛情を一身に受けて育った彼女は私にはひどく眩しいものだった。きっとそこにある清らかさで私を含む様々なものを包み込み、浄化して来たのだろう。

そう思うと自然と愛おしさがさらにこみ上げて来た。

「なまえさん、こっち向いてください。」
「ん?」

気がつけば、彼女の顎に手をかけ唇を重ねていた。チュッと小さなリップ音をたてて唇が離れると彼女は顔を真っ赤にしていた。

「ご両親が愛情込めて育てたあなたを私は誠意を持って愛さなければ」
「鬼灯様は誠実なお方ですよ。」

彼女の頬を親指でなぞり、私達は再び唇を重ねた。

ーー
20140520 知






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