んとう…ですか?


休日、名前は擬態せず、角と耳を隠すために帽子をかぶり、街を歩いていた。

そこで青い帽子が目に入った。

「新しい帽子…買おうかな…」

そんなことを考えてふらりとその店に入ったがいまいちピンとこない。しかもタグを見ると結構な額。今月の食費などを考えるとそんな余裕はなかった。

「はぁ…。」

ため息をつきながら店を出る。ぼんやりと歩いていると人にぶつかった。

「あっ!すみません!お怪我は…」
「大丈夫ですよ。こちらこそすみません。前を見ていませんでした。」
「あれ…加々知さん?」
「おや…名字さんじゃないですか。」

鬼灯は手を伸ばした。
知らない人より知ってる人でよかったと思い、名前は伸ばされた手をとる。

しかし、名前は自分の頭に帽子がないことに気がついた。このままではまた…そう思った名前は咄嗟に下に落ちた帽子を掴み、走って逃げようとした。

「待ってください!」

鬼灯は呼び止め、名前の手首を掴む。

「加々知さん!離してください!」
「ダメです!お話を聞かせてください。」
「話なんかないです!」
「あなた…人間では…」
「加々知さん!それ以上…言わないでください…。お話ししますから…」

手を振りほどこうにもほどけないし、人の目も集まり始めたので諦めて話すことにした。

注文したコーヒーが来ると鬼灯は話を促した。

嘘は通じない…そう思った名前は淡々と自分は鬼の先祖返りであることなど、今までの経緯を全て話しだした。

「なるほど。今まで辛かったでしょう。」
「まぁ…。でっ…でも、加々知さんはこれを見ても怯えたり、不気味に思ったりしませんでしたよね」
「えぇ…あなたと経緯は違いますが、私も鬼なのです。」

そう言って鬼灯は帽子を少しずらしてチラリと角を見せた。自分以外にも鬼がいたのかという驚きともしかしたら何とかなるかもしれないという期待を持った顔をした。

「実は、私は閻魔大王の第一補佐官で鬼神、鬼灯といいます。」
「閻魔様って嘘をつくと下を抜かれるっていう…」
「まぁ、この世界の人の解釈としては正解です。」
「えっと…よくわかりませんが、かが…鬼灯さんはこの世の人ではないんですか?」
「えぇ。不躾な質問ですが、この世はあなたにとって生きづらくありませんか?」

名前は少し口ごもったが、すぐに返事をした。

「はい…。帽子で角や耳を隠したり、人間に擬態しなければなりませんし…」

名前の発言に、今度は鬼灯が驚いた。

「擬態薬を持っているのですか?」
「いえ。体力はかなり使いますが、自力で人間になることができます。他の方はできないんですか?」
「えぇ、おそらく…。何千年も生きていますが、一度も見たことがありません。」
「やはり、私って変なのですね…。」
「落ち込むことはありませんよ。その能力を買っての提案があります。」

名前はキョトンとし、首を傾げる。

「地獄で働いてみませんか?」
「地獄…ですか?そんな非現実的な話…」
「現実にあるのですよ。悪い話ではないと思います。今週の水曜日、シフトがちょうどかぶっています。その時にお話を聞かせてください。」

ここは私が出しておきますね。と言って鬼灯は会計へと向かった。


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