人間で
ありたかった。
ピピピッ…
朝6時。無機質な音に起こされた少女は、1人台所へ行き朝食とお弁当を作る。
身支度を済ませて、自転車にまたがり寒い朝もやの中をさっそうと駆け抜けていく。
「おはよう」
「……」
挨拶をしても無視をされる。彼女にとってそれは日常茶飯事だった。
生まれた時、両親にも親戚にも化物と言われ、誰も相手にはしてくれなかったのだ。両親は彼女のことをめぐり離婚。彼女を引き取った母親には「アンタのせいで私の幸せは崩れた」と何度も言われ、殺されそうにだってなった。しかし、彼女は死ぬことはなかった。
なぜなら彼女は「鬼」なのだ。
正確に言うと、彼女は鬼の先祖返りである。
周りからの目にいたたまれなくなった彼女は、高校入学と同時に家を出て、自分のことを誰も知らない街で一人で暮らしていた。
一本の角に尖った耳。鬼の典型的な特徴ではあるが彼女は人間に擬態することができるので別段、困ることはなかった。
ただ、人間に擬態するにはかなりの体力を消耗する。だから学校ではなるべく、他のことで消耗しないよう、心がけていた。
しかし、1年の冬に体調を崩し、クラスメイトの前で倒れてしまった時に鬼の姿に戻ってしまった。
噂はまたたく間に広まり、彼女はまた恐れられ、一人になってしまった。
「私も普通の人間として生まれたかった」
彼女は何度もそう嘆いた。
← |
→