▼ 大切なもん。
堅物と呼ばれる彼女と見回りに出れば真っ向から向かってくる浪士なんて今やもういなかった。今までの相手は俺の出る幕はなく彼女がすべて、いとも簡単に片付け、何事もなかったのかのように屯所に帰るのが当たり前だった。
「お前、刀好きか?」
毎日毎日、男を相手に刀を振るい、さもあたりまえかのように平然としている彼女に今までずっと気になっていた疑問をぶつけてみた。
「…どうなんでしょう。もはや体の一部みたいなものですし、これがなければ私が私でなくなるんです。だぶん…。」
誰かと似たようなセリフを伏し目がちに答える彼女はどことなく儚い。
「そうか。」
俺はそう一言だけ答え、一服してくるとその場を後にした。
二時間後、手帳を片手に彼女は俺の元へやってきた。
「副長、このあと私と見回りです。それと最近、過激派攘夷浪士の動きが激しいとのことで局長が特に気を付けるようにと。」
「あぁ、分かった。準備ができ次第俺も行く。」
10分後に俺が玄関まで行くといつもより眉間にしわを寄せて彼女が待っていた。
「どうした?」
「いえ…特に。行きましょう、副長。」
彼女の様子に若干の違和感を覚えながらも、いつものように彼女が俺の一歩後ろを歩居ていると彼女が俺にいつもより数段低いトーンで声をかけた。こういう時はろくなことが起きない。
「気づいてますか、副長。」
「あぁ、さっきから痛いくらい殺気を感じてらぁ…」
「ざっと15ですかね。」
「いや、20とみた。気ぃ引き締めて行けよ」
「了解です。」
バッと飛び、刀を持って舞うかのごとく浪士どもを華麗に捌くその姿はとても魅力的である。
あっという間に不逞の輩を処理して応援が来るまで現場で待っていると再び背後に妙な気配を感じた――――
―――気づくのが遅かった。
「おいっ!おい名前!!」
遠方から放たれた弾丸は名前の左胸を貫き、そのままどこかへ消えた。
ダンッ…
「クッ…」
もう一発俺の左腕に弾丸がかすった。それよりも名前の方が心配だった。
「名前!!っ名前っ!!」
ひたすら名前の名前を叫んだ。
「副長…、ご…無事で…なによりです…」
「馬鹿野郎!!俺のことはいいんだよ!!」
「私は…たぶん…もう無理です…。」
「何言ってんだよ!!お前らしくねぇぞ!!」
徐々に焦点が合わなくなってくる名前の瞳には少しだが涙が浮かんでいた。
「最期に…これ…だけは…言わせてくだ…さい。」
「最期とか言うんじゃねェ!!」
「副長は…幸せ…に…なっ…くださ…い。家庭を持って…子供…達と喧嘩した…り…んな生活も…悪くないと……思いま…す。」
ぐったりとしている名前を支えてい俺の腕も震え始めた。
「副長と…一緒に仕事が出来て…よかっ…た…。今度は…刀…な…か…握らない普通の…」
一筋の涙を流しながらゆっくりと目を閉じて、かすかな呼吸も止まった、まだ暖かい彼女を無言で抱きしめ、俺は肩を震わせていた。
あとから来た隊士たちは驚き、そして何人もの輩が泣いた。
俺は葬式が終わってからも数日間、すっかり憔悴していた。誰とも話す気にもなれず、しいて言うなら飯も食わない俺を心配した近藤さんに一言返したくらいだ。
あれからどのくらいの時間が経った頃かは分からないが総悟が俺の部屋にやってきた。
「あれ、またこんなとこでサボりですかぃ?」
「……」
「無視すんのかぃ。まるで今の土方さんは人形みたいでさァ。」
「今の俺に何を言っても何にもなんねぇぞ」
「ちっ…」
ドガッ…
舌打ちをした総悟が俺を殴った。
「あんたはまたそうやって現実から逃げるんですかィ!?姉上の時といい、名前の時といい!!これじゃあどっちもむくわれねェじゃねぇか!二人ともあんたの幸せを祈りながら死んでいったんでィ。なのにあんたは…」
「なっ…」
総悟の言うことがもっともすぎてなにも言えなかった。
「俺からの忠告でィ。あんたはまた大切なもん失くしておんなじことをまた繰り返しやすよ。それだけ言っておきまさァ…」
総悟が部屋から出ていってからも痛みだけは左頬に残った。
「痛ェ…」
その痛みは俺に″生きている″ということだけを伝えているような気がした。
「生きてる…のか…」
あいつらはもう生きていなくて自分は生きている。そんな当たり前だが不思議な感覚が少しおかしく思えてきた。
「少し…動くか」
数日ぶりに部屋から出て一番に浴びた陽はとても暖かかった。
―――
20130421 知
なにこの無理矢理終わらせた感ww
ちなみにこれ、ずっと黒バスの伊月くんの「KI・TA・KO・RE」を聞きながらかいていました!!←