銀魂 短編 | ナノ

 情話が爪弾くかなしみ
 
寒さ厳しい折柄、いかがお過ごしですか。と始められた手紙は今日の早朝に土方十四郎宛に届いた物だった。利休白茶の淡く美しい色味の便せんには流れるように滑らかで女性らしい文字が綴られている。便せんにしても文字にしても、如何にもあいつらしいものだと含むような微笑を浮かべてから文字の羅列をゆっくりとなぞっていく。其処には簡単な新年の挨拶と、根を詰めず俺に対して自愛して欲しいと言う内容。それから彼女の身の回りで起きた囁かな事が書いてあった。梅が咲いた頃に、見に来ませんか。と最後に添えて。そして彼女の家の庭に咲いているのであろう、椿の花弁が三枚ほど封筒の底に沈んでいた。

そういえば、彼女に最後にあったのは何時以来なのだろうか。仕事が忙しかったという理由もあったが、結局のところ俺が彼女と会うことを忌避していたのだろう。どうも俺は先の長くない女を好く傾向にあるらしい。彼女の新雪のように柔く美しい白の肌も、肉の付いていない不健康な腕や脚。それなのに健気で誇らしげに生きる様は、まるで冬椿の花のようだ。美しく咲いてそのまま散ることなく落ちる椿は、俺たちよりも随分武士らしいが、どうしてももう1人の存在がちらつくのだ。
若さ故の判断からくる後悔ととうとう告げられなかった想いは、俺の中で精神的外傷へと変換されて彼女に近付くことすら許してくれない。あの美しい椿が目の前で首を落とすところをどうしても見たくなかったのだ。

そういえば屯所の庭の椿も咲いていた。ふと自室の開け放たれた障子の向こうに広がる庭を見た。女中がいなければ、なんせこの男所帯。誰も管理をしないであろうそれは、濃い赤々と美しく浮き出たように咲いていた。くすんだような洋紅の花弁は朝に吹く冷たい風を受けて、左右にぐらぐらと揺れている。その姿がどうも切なくて、弱々しく感じた。支えてやらねば折れてしまうのではないか。嗚呼、いつまでも感傷に浸っている暇などなかった。
机上に転がる干からびるように固まった筆を取り上げた。手で適当に解し、何時使用したのかも分からないような墨を引っ張り出してきて、灰白色の便せんに不格好で汚い文字を並べた。梅は何時咲きますか、と遠回しな再会を誓って。


庭の片隅でぽとりと椿の花が落ちた。花弁の先は古ぼけて茶色く染まっている。そろそろ梅が咲きますね、美しい梅を1人で眺めてみるのもなかなか風情がありますが、隣が冷たく感じます。
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解釈は3通りですかね。
story:はる
title:誰花
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