銀魂 短編 | ナノ

 嘘から出た真

従姉のミツバちゃんが亡くなってからもう3年が経つ。

真撰組総出で盛大に祝うつもりだった結婚式は急遽、静かな葬式へと変わり、屯所中が一気に悲しい空気に一変したのを今でも忘れられない。

「トシ、これから総悟とミツバ殿のお墓参りに行くんだが…一緒に行くか?」

「いや、俺はいい。あとで行く」

そんな会話が遠くの方で聞こえた。そういって去年も一昨年も行かなかったくせに、そう思いながら非番なのに副長の沖田隊長に押し付けられた書類を黙々と書いていく。これも副長補佐の仕事だから仕方がない。

一区切り着いたところで自分も行こうと近所でお花とミツバちゃんが大好きだった激辛煎餅を買って武州行きの列車に乗り込む。

田舎道をしばらく歩き、見えてきたのは懐かしい景色。その先に目的としていた場所が見えた。

「あれ…誰かいる…」

よく見てみれば副長だった。墓石に手をつき下を向いている。いつもの副長じゃない。どうしよう、これじゃあ近づけない。しばらく物陰で身を潜めていると副長がこっちを見た。

「誰だ?」

ばれた…。いや、ばれて何も問題はないのだがなんかまずい気がいた。

「私です…」

「なんだ…お前か…。こういう言い方もなんだが…なんでいるんだ?」

「ミツバちゃんは従姉です。私の実家もすぐそこです。といっても誰もいませんけどね。道場は総ちゃんと違いましたけど…というか総ちゃんから聞いていませんでした?」

「初耳だ」

土方はびっくりしている。そりゃそうだろう。案外世間は狭いのだ。

「私、ずっとミツバちゃんがうらやましかったんです。美人だし気も効くし優しいし…剣術しかやってこなかった自分とは正反対だと思ったんです。味覚はあれだったけど…。副長の話もよく聞いたんですよ?だから真撰組に入った時はビックリしましたよ。」

「そうか…。じゃああの話はお前のことだったんだな。よくあいつも話してたよ。いつか俺と手合せさせたい剣の強い従妹がいるってな。まぁ一度も名前を言わなかったから気づかなかったがな…」

「そうなんですか。ミツバちゃんってば…」

しばらく他愛もない話をした後土方が腰を上げた。

「俺はそろそろ帰るがどうする?」

「私は電車に乗ってきてしまったので時間までどこかで暇つぶししてます」

「なら、乗ってくか?俺、車で来たし」

そういって土方がさしたのは紛れもなくパトカー。おいおい…これ私用でのっちゃまずいんじゃ…

「パトロールのついでだ」

「完全に管轄外じゃないですか。怒られますよ?でもお言葉に甘えてお願いします。」

「ちゃっかりしてんじゃねぇか」

そういって笑う副長に続いてパトカーに乗り込んだ。

しばらく車を走らせていると、突然副長がこんなことを言いだした。

「今、幕府の高官、高見沢の娘と縁談の話が来ているんだ。でも正直、この話は断りたい。こいつはちょいと厄介でな…。向こうは俺に付き合っている人がいるなら相手によっては身を引くと言っているんだ。ったく…勝手な話だろ?」

「そうですね」

「それでお前には申し訳ないのだが俺の恋人を演じてもらいたい。」

「え?」

まさかの展開に間抜けな声が出てしまった。

「気持ちを踏みにじるようですまないのだが…」

「いいですよ。ミツバちゃんの気持ちもありますしね」

「悪ぃ…」

本当はやりたくない。偽りの恋人なんて。だって私もミツバちゃんと同じように副長のことが好きだから。でもそれより好きでもない相手と結婚なんかさせたくない。私だって惚れた人には幸せになってもらいたいのよ。

いろいろ打ち合わせをしてその日が来た。言っちゃあれだがその娘はお世辞にもかわいいとか美人だとは言えない。どうやらお嬢様ということで縛り付けられるのが嫌で色々とやったらしく結果がこれだ。写真でみる幼少時代は普通にかわいいというのに…

話は進み、その時が来た。

「ところで土方君にはお付き合いしている女性はいらっしゃるのかね?」

「はい。高見沢様もご存じの女性ですが…。名前、入りなさい。」

ここまで予定通り。

「お久しぶりです、高見沢様。真撰組副長補佐官、苗字名前です。」

「なっ…」

「彼女はあとから入隊してきましたが真撰組を起ち上げる前からの付き合いです。お互いの仕事をわかっている私のよき理解者です。近々、籍を入れる予定であります。ですから申し訳ありませんがこのお話はなかったことに…」

高見沢は驚き、娘に至っては泣き始めた。シナリオ通りだ。

「わ…わかった。二人の末永い幸せを祈るよ」

「ありがとうございます。」

深々と頭を下げ見送り、なんとか乗り切った。

――数日後

「おい、名前。見回り行くぞ」

「はい!」

今日は二人で見回りだ。

「俺、ちょっとそこでたばこ買ってくるわ」

名前がひとりになった時にことは起きた。

「うっ…」

――

目を覚ますと真っ暗な場所にいた。感覚からして手足は縛られているが目隠しをされているわけではない。

「目を覚ましたか…」

「誰だ!?」

「高見沢の依頼を受けた殺し屋の樫本です。」

夜目を効かせて人の存在を確認するが、いつも腰に刺さっている刀は取り上げられており、仮に襲われたら抵抗もできない。

「君には悪いが死んでもらいます。君が生きていては高見沢の娘が真撰組副長と結婚できないとかなんとか…。そんなことはどうでもいいのですが…よく見りゃいいカラダをしているではありませんか。楽しんでからでも遅くはないですよね?」

「ふざけんな!!!」

「今すぐとは言いませんよ。しばらくそうしていてください」

――

そのころ土方は山崎を使って名前の行方を捜していた。調べていくと一つの組織が上がった。おそらく名前はやつらの拠点にいる。高見沢が一枚噛んでいる可能性が自然と浮かび上がり嫌な予感がする。

「副長!!!やつらの拠点が分かりました!!」

「何処だ!?」

「ここから南西方向に10kmほど先にある樫本探偵事務所です。事務所の裏には倉庫があります。おそらくそっちでしょうね。この組織、表向きでは探偵事務所ですが裏では人間も扱ってます」

「ちっ…厄介だな。緊急出動だ!」

「了解しました!!!」

ファンファンと音を鳴らし江戸の町を駆け巡る。15分ほどで着いたそこにはなんとも胡散臭い雰囲気が漂っていた。

「ここ…だな」

「はい。間違いありません」

それぞれが配置に付きタイミングをうかがう。

「トシ、一番隊、二番隊突入しろ!!」

「了解しやした」

近藤の指示とドォォォォォォォンというすさまじい爆破音とともに倉庫の壁に穴が開く。樫本達や名前は暗がりにいたため目がちかちかして状況がつかめなていない。

「御用改めである!!!神妙にお縄についてもらおうか!!!」

「総ちゃん!!!!」

聞きなれた声に安堵する。

「土方の馬鹿のせいでとんでもないことになりやしたね、名前さん。俺が来たからにはもう大丈夫でさァ」

「誰が馬鹿だ」

「副長!!!」

樫本はあわてて名前を引き寄せ首元に刃を当て、その周りにはずらりと廃刀令のご時世に刀を持ったやつらが並ぶ。

「来るなよ…。来たらこの尼がどうなるかわかってんだろうな?」

がたがたと声を震わせながら言っている姿はなんとも情けないが人質を取られている以上こっちはうかつに動けない。

「ちっ…」

「だったらこうすればいいんでさァ」

再びドォォォォォォンという爆撃音がする。

「バッ…総悟!!!」

「総ちゃん!!!!私まで殺すつもり!?」

周りのやつらは完全に伸びきっているが名前だけは意識があった。日々、土方への爆撃に巻き込まれているせいだろう。

「自分だけ生き残るたぁ…さすがでさァ。」

土方はそんなやりとりを横目に名前の元へ走り寄り刀でロープを斬る。名前の手足は縛られていたロープの所為で少し鬱血(うっけつ)していた。

「名前!!怪我してねェか!?」

「平気です。ちょっと殴られた後頭部が痛いだけであとはなにも」

「そうか…。よかった。」

そういってほっとする土方はカタカタと震えていた。

「副長?」

「バッ…こっちみんなっ!!!」

心配で顔を覗き込むとバッと背けられた。よく見れば泣きそうな顔をしている。

「…とっ…とにかくっ…無事でなによりだ。一応病院行くから車乗れ」

「ありがとうございます」

そんな土方を見ながらパトカーに乗って警察病院に連れて行ってもらった。

検査が終わり、待合室に戻ると土方はマガジンを読んでいた。

「お待たせしました。何も異常ないそうです」

「そうか…よかった…。正直、あん時はあせったし、お前がいなくなったらどうしようって思ったよ。仕事がすすまねぇしな」

「そうですか?私の代わりはいくらでもいますよ。それこそ山崎君とか…」

「馬鹿。そういうんじゃねぇんだよ」

「??」

きょとんと土方を見上げてみればあきれた表情をしていた。

「今までと違う意味で、真撰組副長としてじゃなくて一人の人間、土方十四郎としてお前が大切だって初めて気づかされたんだ。」

「なっ…。でもミツバちゃんのことは…」

「いつか踏ん切りをつけなきゃいけねぇとは自分でも思っていたんだ。でもな…。この間、いつまでも姉上に執着すんな。あんたが姉上の幸せを願ったように、姉上もあんたの幸せを願ってんだ、って総悟に怒られたんだ。」

「……」


「そんでお前が人質に取られたとき、一瞬あいつが頭をよぎったんだ。そんでまた大事なやつが目の前で消えていくんだと思ったら頭ん中真っ白になっちまって…。」

「……」

「もしかしたらあいつへの気持ちが切れないまま中途半端なことになっちまうかもしんねぇ。でも大事なやつはそばに置いておきたい。こんな中途半端な俺だが…その…」

「いいですよ。それよりミツバちゃんへの気持ちを大事にしてあげてください。それこそ踏みにじった時は私がただじゃおきません。」

真剣な顔でそういう名前はどこかミツバに似ていた。

「すまん…。ありがと…な。」

土方はそういいながら名前を自分の元へ引き寄せ、強く抱きしめた。



――

うわああww長ぇwwwwwwwwwwwww

ごめんなさい!!ここまでお付き合いくださりありがとうございました!!!

20121224 知







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