▼ 酔っ払い
高いところで一つにくくった黒い髪に目つきの悪さ。警戒心が強く、その割に無鉄砲。1番隊隊士である名前は見た目も性格も武州のにいたころの俺によく似てやがる。
そんな彼女に惹かれるようになったのはいつからだろうか。
「副長、話聞いてます?」
「わ…わりっ、聞いてなかった」
「どうせまたマヨネーズのことでも考えていたんでしょう?脳みそまでマヨネーズでできているんですか?」
「アホ、んなわけあるか」
お前のこと考えていたら話聞きそびれたなんて言ったらこいつはどんな反応するんだろうな。
「副長、気持ち悪いです」
あれ?俺、無意識のうちに口に出していたか?
「ニヤニヤしてますよ」
「なっ…んなことねぇよ!!!」
「とりあえず私の用は済んだので部屋に戻りますね。それではおやすみなさい」
「あぁ…」
自分もそろそろ寝ようと布団を敷く。
「副長。」
っと思ったら10分もたたないうちに名前が帰ってきた。
「局長が2人とも明日は非番だし3人で呑もうって…」
「しゃーねーな…」
近藤さんの部屋に行くと3人分のつまみとお猪口が用意されていた。
「トシ、名前ちゃんお疲れ」
「お疲れ様です」
「とっつぁんに酒をもらったんだが一人じゃ呑みきれねぇし、こうして2人を呼んだってわけだ」
「これ度数高すぎじゃねェか?」
「まぁ…こんぐらいいけるだろ」
「あれ?それよりこれ、いいお酒じゃないですか!!高いんですよ、これ!!!」
「そうなのか!!よし、早速呑もう!!」
なんか俺、置いてけぼりじゃね?
小一時間たったころ、だいぶ名前も酔ってきてなんだかふわふわしている。そんな中近藤さんが突然こんなことを言い出した。
「にしても名前ちゃんは昔のトシにそっくりだなー」
「そうですかー?でも自分にそっくりな人が好きって変な話ですよねー」
あれ?こいつ今なんつった?
これ以上呑ませるとなんだか嫌な予感がするのでそろそろお暇するとしよう。
「近藤さん、さすがにこのまま飲み続けると名前が完全に酔いつぶれちまうからこいつつれてもう寝るわ」
「そうか」
「えー、もう終わりですかー?」
「たりめぇだ。お前もうベロンベロンじゃねぇか」
「そんなことないですよー。あと10杯くらいよゆーですよー」
「腹8分目っていうだろ。もうやめとけ。二日酔いで丸一日のオフ無駄にするぞ」
「わかりましたー。じゃあ近藤さん、また誘ってくださいね。おやすみなさーい」
「おやすみ」
ったく酒弱いのにあんなに呑んでんじゃねェよ。
背中に乗った瞬間寝やがるし、おぶっているせいで名前の顔がすごく近いあげく、一歩くたびに息がかかる。
「副長…」
「あ?」
「………」
「寝言かよ…」
やっぱこいつ俺と似てないわ。こいつは俺なんかより無邪気で、純粋で、優しくて…。ったく…これで1番隊に所属できるほどの剣豪ってんだから笑えるよな。
―――
20121209 知