銀魂 短編 | ナノ

 それは俺の仕事で

その女は馬鹿な女で自分の危険を省みないで戦火に突っ込んでいくような女だった。俗に世ではそれを自己犠牲といったりするのだがあいつはそんなこと微塵も思っちゃいないから余計に質が悪い。怪我は日常茶飯事だし何回入院するんだと呆れかえって言葉を失ったこともあった。それでも俺があいつのことを放っておけないのは俺の気持ちが彼女に寄りかかるように傾いているからだ。幼なじみである彼女を田舎から出すのは反対だった。

遊びじゃねぇんだ。そう低く唸るように言えば名前は馬鹿にしないでと俺に罵声を上げるだけ上げて道場を飛び出した。いつも勝てもしないような年上の男に喧嘩を売ってはボロボロになって近藤さんを心配させる。その時もどうせ同じだと彼女の背中を渋々追い掛ければ早足で歩くその背中は似合わない小刻みな震えをしていて思わず目を疑った。

「置いて行かれたくない。でも私は女なんだ。総悟にだっていつか置いていかれちゃう。私じゃ男になんて勝てないもん」


どくりと心臓が大きく脈を打ち血が逆流していくような感覚に見舞われた。その背中は小さくて細いくせに大きな悩みばかり抱えている。喉がからからして眼が掠れる。思わずその背中を右の手のひらで思い切り音がするまで叩いた。


「お前じゃ俺に勝てねぇ」
「…なによ。」
「ま、支えてやらねぇことはねぇ。お前は俺に守られてろィ」
「私死んじゃうかな。江戸に出たら」
「死にゃしねぇよ。…俺がバンドエイドでも貼ってやりまさァ」


そうからかうように言ってやれば名前はいつもと同じ様に歯を見せて笑った。太ももが露出する勢いで走り出した名前を呆れ顔で追いかけていたはずの俺だったが些か頬がゆるんでいた気がする。振り返りざまに見せた名前の眩しいまでの笑みは俺がこの手に掛けて守ってやろうだなんて柄にもないことを考えていた。


「総悟」
「…なんでィ」
「早く貼ってよ」
「…ちったぁ器用に避けれねぇのか」
「これでも避けた方」
「嫁に行けなくなっちまうぜ」
「うるさいよ」


二の腕から流れ出る血を拭ってから絆創膏を傷口に貼れば彼女は眉を少しだけ潜めた。名前の真っ白で細く細かい傷跡まみれの二の腕はお世辞にも綺麗じゃなかったが俺にとっては何よりも魅力的に見えた。


「総悟」
「豚」
「はぁ?」
「甘味屋なんてどうですかィ」
「行く!」


彼女はアホで馬鹿で後先考えないイノシシでこの俺を心配させるとんでもない女だが彼女の笑顔ひとつですべてがどうでも良くなってしまう俺は世界一のアホで馬鹿だ。


20120417 榛
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