「源田クンってどんなものでもキャッチ出来るの?」
「あぁ、出来るさ。そうじゃないと帝国のゴールキーパーなんて任されないだろ?」
それもそうだ、と言って大きく頷いていた。意外な人物に話しかけられて少し戸惑ったが上手く会話出来たと思う。意中の女子に話しかけられるだけで舞い上がる俺も相当ガキなのかもしれない。不思議な雰囲気を漂わせていると評されている彼女はやっぱり言動も不思議だった。
「私が投げるこの紙くずも?」
「もちろん。」
反射的に投げられた紙くずを難なくキャッチする。これはさっき配られたプリントじゃないか、ぐしゃぐしゃになり紙くずとなったプリントに少し同情して近くにあったゴミ箱に投げ入れた。
「水風船を割らずにキャッチ出来る?」
「あぁ、もちろんだ。」
「野球選手が投げるボールは?」
「簡単に捕るさ。」
「鬼道クンが蹴るボールも?」
「鬼道には悪いが捕らせてもらう。」
他にもたくさんの事を聞かれたがそれでも俺は首を横には振らなかった。帝国のゴールキーパーに誇りをもっているからこそ俺に捕れないものはないと思っている。
「なぁ、そろそろチャイムが鳴るぞ?」
刻々と休み時間の終了が迫る。次の時間の担任はチャイムが鳴る前に着席していないと怒る厳しい先生だ。捕れないものはないが恐ろしいものぐらいはある、俺はあの先生が苦手だ。
「じゃあ最後に一つだけ。」
ふわりと微笑む彼女を見ると先生なんて来なくていいのにと思う。彼女と会話すると俺たち二人だけの世界にいるような気がした、やっぱり彼女は魅力的だ。
「高い所から飛び降りた人も受け止められる?」
「…あぁそうだな受け止められる。」
思ってもみなかった。純粋無垢な瞳をもつ彼女からそんな言葉を発せられるなんて驚きも隠せない。酷く焦った声だったと自分でも分かった。
「それは嘘、そんなこと出来ないよ源田クン。受け止めたら源田クンも死んじゃうよ。落ちてくる衝撃は一トン余裕で超えるんだよ、源田クンぐちゃぐちゃになっちゃうね。」
「それでも俺は受け止める。いつもそんなボールを捕ってるんだ、受け止めれるさ。」
「馬鹿だなぁ。どれだけ超次元なサッカーボールをいつも相手してるからって所詮ボールなんだよ?衝撃もスピードもボールとは違うよ。」
小さく溜息をつきポツリポツリ話す彼女はさっきまでの笑顔は消え去っていた。彼女は俺が受け止める事は無謀なことだと理解してくれる様、小さい子をあやすように喋っている。彼女が俺に無謀だと理解して欲しいと思うなら、俺だって受け止められると理解して欲しい。自分でもどこか飛び降りを受け止める事なんて無理だと思ってるかもしれないがそれでも自分の力を信じたい。
「じゃあ今から私屋上から飛び降りるからちゃんと受け止めてね。」
彼女は綺麗にはにかんで、俺の手を引いた。
落下
何かが割れて消え去った。
20110424