正義、とは何か。
幼少期に植えつけられた正義は今私がやってるコトと大きくかけ離れていて。両親が、先生が、皆が私を愛してくれていたのにそれを裏切ってここに立っている。今私が立っているのは誰かを踏み台にしたからだ。
爪を噛むとパキッと小さく音が鳴った。爪が割れた、口の中で。爪の破片の異物感で気持ちが悪い。ペッと爪と唾を絡めて地面に吐き捨てた。
おぞましい。自分の口の中から出たものだと分かっていても気持ち悪い。粘り気のある唾はあたかもそこにあったかの様に見えた。
「汚ねぇな。」
唾を、いや私を、嫌そうに見つめるその瞳にたまに吸い込まれそうになる。半分人間ではない彼は酷く魅力的に見える。
「サソリの正義ってなに?」
いきなりだな、と言ってサソリは鼻で笑った。私がこんなことを問う事に対してなのか。私より少し背の高いサソリを見上げた。
「…俺はその質問に答える義務はない、自分で考えろ。」
吐き捨てるようにサソリが言った言葉は、まるでさっき私が飛ばした唾のようだ。サソリらしい答えに私は少し項垂れた。私が欲しい答えを知っているかもしれない、そんな淡い気持ちも抱いていたかも。
「お前が今ここにいるのは自分で選んだ結論。それがお前の言う正義だろ。」
サソリの的確な発言に言葉がつまる。何故か目頭が熱くなるのを、ただただどうにかしたかった。
「そんなに自分の正義が訳分からねぇんなら、いっそ俺の傀儡になるか?」
それもいいかもしれない。サソリの傀儡になってしまえば傀儡にとって主のサソリが正義だ、こんな難しいことを考えない日々を送れるだろう。
アイツはよく泣いていた、ひっそりと。誰にも見つからないように泣くアイツの姿を見た夜は酷く核が痛んだ。多分俺以外はアイツが泣いてるだなんて知らないだろう、アイツも俺がその姿を見てるのを知らないだろう。ただ、一人。俺、一人だけがアイツの本来の姿を知っている気がして優越感によく浸っていた。
正義、とは何か。
いきなりの言葉に少したじろいだ。聞かれた事もなければ自分で考えた事のないものは答えに困る。俺をじっと見つめる瞳に急かされて適当に言葉を並べる。最後の言葉は俺の本音かもしれない。俺のすぐ傍にいさせたい、傀儡でもいいと。傀儡になることを拒まないアイツの目は死んでいた。
虚しさを紛らわすように慰め合う
20110203