手、が震えた。クナイを持つ手がカタカタと震えた。何人も、何百もの単位の人を殺してるのにどうして目の前にいる男の子を殺せないのだろう。男の子は恐怖で声がか細くなっていて小さくお父さん、お母さんと縋るように呟いた。目の前で、私が、この子の両親を殺した。任務がこの一家を全員殺す、ただそれだけの事。私は深く目を瞑ってクナイを持つ手を強めた。ピチャリと私の頬に何かがついたのを感じると私はすぐその場を離れた。
「サ、ソリ、」
「遅い、何分かけるつもりだ。」
「ごめん。」
サソリが怒ってるのはすぐ分かった。ヒルコに入ってるけどサソリの声に怒りが混じっている、じゃあ一人でアジトに帰ったら良いのに。でもそんな事を考えるより私はまだ自分の手が震えてるのをどうにかしたかった。そんな私にサソリは気づいた様でどうしたと訪ねてきた、パカリとヒルコが開き本体のサソリが出てくる。
「幸せそうな家族を殺したの。息子の誕生日らしくて家の飾り付けが凄く凝ってた。」
「…くだらねぇ。」
「そうかもね。でも私手が震えた、殺しには慣れてるはずなのに怖くなったの。」
「アイツらも俺等と同じことをやっていた、だからお前に始末された。それだけだ。」
あの一家も名を轟かせていた暗殺者だった。もう今は身を引いて子育てに専念していたと安易に想像できる。息子を守るのに必死で隙だらけで現役の暗殺者とは大きくかけ離れていた。私はその姿を見て羨ましいと思ったのかもしれない、自分の知らない感情がふつふつと沸いたのだ。サソリとは付き合っている、でも私達のカラダはオカシイから子供なんて出来るわけはない。それは覆れない事で私達自身も諦めている。それなのに、あの家族を襲撃して子供が欲しいと思ってしまった。
がさがさと草が揺れた。ばっと音が聞こえた方を向いてクナイを構える。ひょっこりと現れたのは5,6歳の小さな女の子だった。一気に私は拍子が抜けて小さく溜息をついた。サソリはその事が分かってたと思う、普通なら気配で分かるのに私は気づかなかったS級犯罪者失格かも。
「…よく見るとサソリに似てるね、目とか。」
「お前の方が似てるだろ、馬鹿っぽそうな所が。」
サソリの余計な一言にイラッとしつつ女の子の頭を撫でた。少し私達に警戒してたようで私が頭を撫でるとふにゃりと笑った。小さい子独特の可愛らしい笑顔に又ズキズキと胸が痛んだ。おいうちをかけるように、どことなくサソリにに似てる。サソリは私に似てると豪語していたけど。もし私達に子供がいるのならこういう顔つきだったんだろうか、この子に生まれる事のない子供に重ね合わせる。
「どうしてこんな夜中に出歩いてるの?」
「お花、つんでたの!」
にっこりと笑って持っていた花を私に見せた。力を込めて握ってたのか花は少し萎れていた。でも女の子は宝物を扱うように顔を綻ばしていた。
「今日お兄ちゃんに誕生日なの。」
顔が引きつった気がした。お兄ちゃんの誕生日?今さっき襲撃した一家も誕生日の息子がいた。親もこの子を遠くまで花を摘ませに行かないだろう、この場所に一番近い家はさっきの襲撃した家。じゃあこの子はあの一家の家族?
「…殺す、か。」
サソリが呟いた。任務は一家全員始末すること、この子も家族だ始末しなければならないだろう。私達が殺さなかったら違う奴等に容赦なく殺される。どのみち殺されるというのならば自分の手で殺す、サソリの優しさが感じられた。
涙の冷たさを知った夜明け前
情をうつした私が悪い
20110116