きゅっと蛇口を捻ると勢いよく丁度いい温度のお湯が私に降りかかる。シャワーで執拗に返り血を洗い落とす。ごめんね、ばいばい。私が殺してしまった誰かを追悼しながら排水溝に私以外の誰かの血が飲み込まれていくのをただただ見つめていた。今日は何人この手で殺したのだろうか。暁に入った時点で人を殺すことは最低目標だと分かっていたがやっぱり毎日毎日殺戮を繰り返すなんて狂ってしまいそうだった。今となっては、もうどうにも思わなくなっていた。血が綺麗だと感じてしまった日には自分でも吃驚した。
蛇口をもう一度捻るとぴたりとお湯は止まった。でも何滴かはひたひたと名残惜しそうにしたたり落ちていた。


「イタチ?」

イタチがちょこんと月を眺めながら座っていた。後ろ姿を見て一目でイタチだって事は分かるけどやっぱりイタチ?と聞いてしまう。何でか分からないけど、人間のサガなのかも。
イタチはゆっくり私の方を振り向いた。ぺこりお辞儀すると又月の方を眺め出した。イタチが何を思って月を眺めてるのか分からないけど何となく面白くなかった。あぁ月に嫉妬してるみたい。
イタチの隣に座ってみる。何にも言ってこないから座ってもいですよと捉えてみる。イタチが隣に座るなだんて言わないだろうけど。

「何しているの?」
「月を見ています。」
「それはどうして?」
「昔を思い出します。」

私に視線を一切向けないイタチは切なそうに月を眺めている。思い耽っているような感じもする。そういえばイタチが暁に入ってきた夜はこんな綺麗な月だったっけ。デイダラの時だったっけ?どっちにしろ私はイタチの過去なんて知らない。

「私イタチの敬語嫌い。」

イタチがやっと私に視線を向けた。イタチの黒い瞳が少し大きくなってまたすぐに戻った。吃驚したのかな、イタチでも吃驚するんだ。

「どうして私に敬語なの?」
「先輩だからですよ。」

私が暁に入ったのはイタチが暁に入る数日前だった。年齢もさほど変わらないし先輩後輩というのは少しおかしい気もする。デイダラや飛段何か私にため口だし私も角都やサソリに対してため口だ。同僚に近いイタチにどうして敬語で喋られないといけないのか。イタチと同等でありたい、だなんて私の我儘?

イタチは困ったように笑って任務なのでと言ってその場から立ち去った。私、逃げられたみたいじゃない。イタチを困らそうだなんて思って言ったわけじゃないのに。


水槽底熱帯魚


イタチのように月を眺めてみる。そうすればイタチと同じ気持ちになれるかもしれないっていう淡い気持ちを抱きながら。


20110104
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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