頭が生温かい。涙や汗のようにとめどなく溢れる何かは、涙のような透明の色をしていなく、赤黒かった。汗のようなしょっぱい味じゃなく、鉄の味がした。頭、割れたんだろうか。痛みのピークが過ぎて、感覚が麻痺してる。やけに冷静なわたし、死ぬのかな。今日のおやつはマフィンなのにな、明日はカラオケ行く予定だったのに。わたしは力を振り絞って、アイツの足を掴んだ。
意識が朦朧している。目の前は霞んでよく見えない、でもはっきり見えたのはアイツの顔は無表情だったこと。アイツが手に持っているのは血がべっとりついた鉄バット。わたし、あのバットで殴られたんだ。アイツがゆっくりバットを振りあげる。


◇◆◇


目が覚めると、少年がわたしの隣に座っていた。整っている顔の人の無表情は少し怖い。じっとわたしの顔を見つめている少年。この人、だれだろう。知っていそうで知らない。思い出そうとすると頭がずきずきと悲鳴をあげる。だからわたしは考えるのをやめた。


「だれですか。」
「ハルナ。」


ハルナと名乗った少年はやっぱり眉ひとつ動かさなかった。ハルナって名前なんだろうか、それとも苗字?女の子みたいな名前に少し驚いた。それは名前か苗字か尋ねようと思ったけど、失礼だと思ってやっぱり止めた。


「本当に全部忘れたんだな。」
「なにをですか。」
「記憶障害、らしいぜ。今のお前。」


ああやっぱり。なんとなくそんな感じの類いだと思った。多分ここは病室だろう。その病室にたくさんのお花や果物が飾ってるけどわたしはいつ貰っただとか一切覚えていない。ぼんやりと病室を見渡すと果物の間に挟まってるノートを見つけ、ぱらぱらとページをめくるとびっしりとその日あった出来事が綴られていた。なあんだわたし、一ヵ月ぐらいずっと病院生活してるんだ。そのノートにはハルナくんの名前がいつも書かれている。この人、毎日お見舞い来てくれてるんだ。もしかして彼氏、とかかなあ。あらぬ想像をしながらわたしは昨日書かれたページを読んだ。


「わたしってどうして記憶障害になったの?」
「バットで頭を殴られたからだろ。」
「じゃあどうしてハルナくんはわたしをバットで殴ったの?」


ハルナくんは初めて無表情から顔が変わった。ハルナくんの口角がいやらしく上がる。ぶわりと鳥肌がたつ、この人気持ち悪い。
ハルナくんがポケットから取り出したのは少し錆びたバタフライナイフ。わたし、刺されるのか。どうしてわたしがハルナくんに命を狙われてるのか知らない、知りたくもない。わたしは少し先の未来を想像すると憂鬱になった。どうしてわたし、バットで殴られたときに死ななかったんだろう。悪運が強いっていやなものだ。




“ハルナはわたしを殴った犯人。気をつけろ”焦って書いたのか随分汚い字だ。そのページを俺は破った、びりびりびり。お前がこんなの書かなかったら殺さなくてすんだのに、馬鹿な奴。ベットの上で息絶えてるアイツ、後ろ首には俺のお気に入りのバタフライナイフが刺さっている。まだ生温かいアイツの体を俺は抱きしめた。


20111113
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