夏を連想させる人物は今もこの先も綱海条介しか頭に浮かばないだろう。それほどまでも、彼は夏を人一倍楽しんでいたし似合ってもいた。ただ、少しだけ、ほんの少しだけ、暑苦しいと思うときもある。それも良い意味で。わたしがいつの日か、綱海に夏が似合うと話した時、綱海は豪快にそれでいて優しく笑った。だから、わたしもつられて笑った。幸せだった、こんな風に笑いあえた頃は。


綱海は、変わってしまった。ある程度の事は難なくこなす綱海が、受験という壁に挫折したのだ。彼は勉強から逃げ、留年し、高校を中途退学してしまった。綱海はそれでも必死に就職活動に励んだが、それが足を引っ張り、綱海は社会からもつまはじきにあった。
綱海のあの瞳は今でもはっきりと思い出せる。何もかも拒絶した瞳。自分の人生を目一杯楽しんでいたあの顔つきは、げっそりとやつれ昔の綱海では考えられなかった。“人生ノリじゃなんにも出来ねえな”吐き捨てるように呟いた言葉は、今思えば綱海の声を聞いたのは最後だったんではないだろうか。

綱海が笑って楽しんでサーフィンしていたあの場所は、海は、もう綱海のように荒んでいる。彼が荒れ始めてから、海も荒れ始めた。もしかしたら、海と綱海は一心同体だったのかもしれない。海に行けば、綱海が笑顔で出迎えてくれたけど、今はもう打ち上げられたゴミが出迎える。わたしの大好きな綱海は、いない。


「つなみ、つなみぃ・・・、」
「・・・・」


月が海に反射してきらきら輝いている以外、真っ暗な辺り。ゴミだらけの浜辺に綱海が一人佇んでいた。綱海の姿を見るのは久しぶりで、反射的に声をかける。何度も何度も、彼の名前を呼び続けた。それでも綱海の口が開く様子は微塵も感じない。すがるように服の裾を握った。どこにも行かないで、お願い。


「・・・じゃあな、」


綱海はわたしの腕を振り払い、それなのに昔のように優しく目を細めた。ぎゅっと心臓が痛くなる。優しくわたしを、拒絶した。今の綱海の精一杯の優しさに胸が痛い、いたいよ、つなみ。


20111106
ユートピアへの切符
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