男の子が泣いている姿なんて見たのは小学校の時以来、先生に怒られたからという単純明快な理由だった。今、声を押し殺して泣いているのは、隣のクラスの高瀬くんで。確か、野球部のピッチャー。今日は試合だって応援に行った友達が言ってた。高瀬くんが泣いてる理由は、なに?もしかして、試合に負けたのかな?いやいや、桐青は去年優勝したって聞いたし。

本当はこの場所からわたしは逃げ出したかった。高瀬くんとはなんの面識もない。多分高瀬くんはわたしの存在に気づいてないと思う、気づいてたら何かリアクションをするだろうし。それでもわたしはその場から動けずにいた。ただ足が動かないのだ。なぜ足が動かないのか、理由は分からなかった。こういうときは何か声をかけてあげたらいいんだろうか。どうしたの?大丈夫?ありきたりな言葉しか出てこない。もしわたしの言葉で高瀬くんのプライドが傷ついたら…どうしよう。


「!・・・う、あ、」
「ごっ、ごめん、なさい、!」


高瀬くんはばっと顔をあげ、ひっくとしゃっくりをあげ、後からずずっと鼻をすする音が聞こえた。高瀬くんの目は腫れ少し充血している、それだけ泣いていたんだ。高瀬くんは驚き半分恥ずかしさ半分、というような顔をしていた。それもそうだ、ずっと泣いている姿を見られてたんだから。


「わ、るい、」


高瀬くんの謝罪は一体誰に向けたんだろうか。わたしに対しては重すぎる、そんな風に感じられた。次から次へと溢れる涙に高瀬くんは必死に拭っていた。のどがきゅうっと熱くなる。これはもらい泣きっていうのだろうか。悲しくないのに、高瀬くんの涙を見てるとわたしも泣けてくる。高瀬くんが泣いてる理由は知らない、でもわたしが泣きそうになる理由は高瀬くんが泣いているからだ。


20111106
それは悲しいほどに
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