殴られるのも蹴られるのも大嫌いや、自分が相手よりも格下に見られるのも虫唾が走る。お前らは俺より偉いんか?俺を殴って優越感に浸り気持ち悪く緩んだ顔はゴミのように見えた。俺の握りこぶしの力は徐々にこもるが、それを相手に向けることはなかった。今週の日曜は練習試合や、部員みんな楽しみにしてる。そう考えると殴り返すことは出来なかった。俺のせいで停部になったら責め立てる奴もおるけど、謙也さん辺りは逆に心配してくるやろう。そんなん、面倒くさいわ。こいつら絶対許さへん。俺を囲んでる六人の顔を深く脳に刻み込んだ。人通りの少ない校舎裏に呼び出して、大人数で俺をリンチして、俺より年上のくせして本間しょうもない。俺を呼びだした理由は先輩の威厳を保つためだろう。最初からお前らの威厳なんてこれぽっちもなかったけどな。何度目か分からない蹴りをくらわされる時、誰かが叫んだ。「先生!こっちです!」その声のおかげで蹴りをくらわずに済んだ。あいつらは、しまったという顔をして声が聞こえた逆の方向に逃げた。立ちあがろうとすると足に力が入らなかった、思った以上にダメージが深かったらしい。


「ざっ財前!大丈夫なん、それっ!」
「なんや、先輩っすか。大丈夫に決まってるやろ。」
「…えげつない。最低や。他の人に分からへんようにお腹ばっかり狙ってる、なあ財前殴った奴等誰なん?」
「…知りません。」


どたどたと俺の方に駆け寄ってきた先輩は息も絶え絶えやった。先輩はそっと俺の腹を撫でる。今にも泣き出しそうな顔をしてる先輩、あんたはそんな顔せんでいいやろ。俺の答えに不服そうにしてたけど、先輩は折れてずっと俺が怪我しているところを撫で続けた。


「財前さ。こんなんされんの初めてちゃうやろ?」
「…はあ?俺が何回もやられると思ってるんすか。」
「この前、お腹庇いながら試合してたやん。私以外気づいてへんかったけど、みんなを見てるマネージャーの私が気付かへんわけないやろ。」
「・・・。」
「どうせ財前のことや。停部になると思っていっつも殴り返すん我慢してたんやろ?」


あほちゃう、とぼろぼろと泣きながら言う先輩の方があほに見える。他人の為にそんな簡単に泣くなや。先輩が俺の腹を撫でるように俺も先輩の頭を撫でた。先輩は恥ずかしそうに笑う、泣くか笑うかどっちかにしろや俺が面倒くさい。先輩やって、俺と同じことされてるくせに。俺以外知らん、先輩が陰で苛められてること。殴られるのは日常茶飯事、総スカンは当り前、漫画みたいな苛められ方に哀れさえも思う。苛められてるのを気づかれないよう必死こいて演技してる先輩は世界で一番あほや。“明日友達と買い物に行くねん”うそつくなや、友達おらんくせに。“今日は友達と一緒にお昼食べるからみんなと食べられへんわ、ごめんな”うそつくなや、呼び出しされただけやろ。俺が部長に先輩のこと話せばすぐに対処してくれるやろう。でも俺はそれをしんかった。先輩の弱み知ってんの俺だけで良いねん。


「俺と一緒に死のうや。」


◇◆◇


「俺と一緒に死のうや。」


財前の声色が優しくて、思わず頷きそうになった。あかん、そんなん考えたらあかん。いっそ楽になってしまいたいと思う時も何度かあった。でもテニス部のことを考えると踏み留めれた。財前はテニスセンスもあるし、将来有望や。私のせいでその芽を潰すわけにもいかへん。テニス部のマネージャーになるって決めて覚悟してきたもん。日に日に増えるアザも、毎日なくなる教科書もノートも、勲章やって思ったら頑張れた。ごめんな、財前。そう言うと財前は不貞腐れた顔をして私の手を振り払った。よろよろと立ちあがって財前は歩きだす、私はあえて財前を支えず二、三歩後ろに下がって歩いた。






俺の誘いを断った先輩は次の日トラックに轢かれて呆気なく死んだ。何やねん、結局死ぬんやったら俺と一緒に死ねば良かったんや。俺が一人で死なれへんヘタレって知ってるくせに、裏切り者。俺の腕の傷はまた一つ、増えた。


20111104
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